第五十七話 ページ14
「これ以上夫が思い通りに動くと思ったら大間違いよ」
ガラス越しに、武蔵先生が青鬼に声をかけた。
「そうでしょうか。武蔵刑事は、あなたのためなら命でも捨てるはずです」
「夫に恨みでもあるの?」
その問いに、青鬼はようやく武蔵先生を見る。
「あの男が……私を鬼にしたんです」
「どういう意味?」
その問いに、青鬼は答えなかった。
代わりに、今入ったのであろう鬼からの無線に応える。
「今データベースを調べているところです……わかっています」
その様子を、私はただ見ていることしかできなかった。
それは、二人の会話が終わって少しした後。
コトリ。
その音に、私は振り返る。
青鬼が、面を外していた。
武蔵先生や知事もその様子を見、驚きの表情を浮かべている。
ただ、耕一さん……もとい面を外した青鬼はそれに気づいていない。
「やはりここにいましたか……見つけましたよ、琴音を」
私たち三人の目線は青鬼に向けられている。
でも、彼の潤んだ瞳に気づいたのは、きっと私だけ。
すぐに連れてこられたのは施設内の暗所。
知事は察しているのだろう、私たちから随分と離れたところにいる。
青鬼が小さな扉を開けると、冷気が足元に漂ってきた。
黒鬼、赤鬼——こちらも鬼の面を外している――が走り寄って来、三人でその中に入っていたものを引き出した。
「ッ!」
「琴音……!」
泣き出す黒鬼。
入っていたのは、琴音さんの遺体だった。
「知事……知ってたんですか?」
知事は答えない。
「彼女は……ずっとここに閉じ込められていました。あの時遺体が見つかっていれば……区切りがついたかもしれない。私たちは、前に進むことができなかった。」
泣きじゃくる黒鬼の肩を赤鬼が支える。
青鬼はまっすぐに、知事を睨んだ。
「あなたのP2計画のせいで」
「P2計画って何なんですか……どうして私たちに隠してたんですか!」
「あなたが知る必要のないことです」
知事は冷淡に応える。
「教えてください!」
「どうやら、我々と武蔵先生は意見が一致したようです」
「私も知りたいです。お母さん」
私が口を開くと、知事はゆっくりとその視線をこちらに向ける。
「お母さんがなぜそれを私の命より重く見ているのかを」
「……これはあなたの命を守るためでもあるのよ」
「…………そう」
「親子喧嘩はそこまでにしてください」
私たちを止めたのは青鬼だった。
「配信の時間です」
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月乃派(プロフ) - そらえびさん» ありがとうございます!!!そらえびさんは神か??? (3月24日 20時) (レス) @page31 id: 67461f2801 (このIDを非表示/違反報告)
そらえび(プロフ) - 月乃派さん» リクエストありがとうございます!設定上全編通しては難しいのですが、少しだけ書きます! (3月24日 16時) (レス) id: 034df459ee (このIDを非表示/違反報告)
月乃派(プロフ) - あのー、できれば新航空占拠もやって欲しいです。時間めっちゃかかってもいいのでもし、よければ何卒お願いします🙇 (3月16日 23時) (レス) @page30 id: 67461f2801 (このIDを非表示/違反報告)
そらえび(プロフ) - minbutahuikbさん» ありがとうございます! (1月17日 15時) (レス) @page30 id: bea40306cd (このIDを非表示/違反報告)
minbutahuikb(プロフ) - 凄くおもしろかったです (1月16日 8時) (レス) @page30 id: 5e3e8dde78 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:そらえび | 作成日時:2023年12月4日 22時