第五十六話 ページ13
「要求に応じなかった場合は知事と、その娘を殺します」
地下四階から、青鬼の合成音声が世界中に響く。
「何か言いたいことはありますか?」
「県警の皆さん。聞いてください。このままでは模倣犯が生まれる可能性があります。これ以上テロリストの要求に応じてはなりません。私は、ここで殺されてもかまいません」
「勇ましい。さすがは知事」
先ほどの私に対する態度は何だったのか、カメラを前に、母は毅然とした「知事」として言葉を残す。
「Aさんは、何かありますか?」
「……知事は、自分の命を捨ててでも守りたい何かがあるのですね。素晴らしいです」
その守りたい「何か」を、私の口から言うのはさすがに野暮だろう。
だったら、言うべきことは決まっていた。
「それが私の命でないことは、少し残念です」
私は、微笑みながら肩をすくめる。
母がハッとした顔でこちらを見たのが視界の端にうつった。
「では午前十時に。ごきげんよう」
配信が途切れると、青鬼は銃をおろす。
「A……」
母はショックを受けた顔をしていた。
「青鬼さん。私を人質に選んでくれてありがとうございます」
私はそんな母を無視し、彼に話しかける。
青鬼は無表情にこちらを向いた。
「社会的なものか、肉体的なものかはまだわかりませんけれど。でも、これでようやく私はこのクソみたいな人生を終えられる」
「……それは何よりです」
今の私は、きっと今までの人生で一番の笑顔を浮かべられていると思う。
自分の気持ちに正直になるって清々しい。
だから、青鬼の無表情から読み取れる感情には、気づかないふりをした。
☆
「わかりました。本部を地下に移動させてください。人質の移動もお願いします」
配信が終わった少しあと、入った無線に青鬼が応対する。
少しすると、武蔵先生が下に降りてきた。
「武蔵先生」
戸惑い気味の武蔵先生に、私は声をかける。
「Aさん……」
「先ほどはありがとうございました。肩の傷、治療していただいて」
「ううん。命に別状がなくてよかった」
「お三方、こちらへ」
そう言ったのは青鬼。
彼の先導で、私たちは施設内の休憩室のようなところに案内される。
「準備が整うまでこちらで待機していてください」
私は悠々と、他二人は顔をこわばらせながらも、青鬼の指示に従った。
「ここって……研究施設ですよね?何の研究を……」
沈黙を破ったのは武蔵先生だ。
知事はただ黙って、目をそらすだけだった。
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月乃派(プロフ) - そらえびさん» ありがとうございます!!!そらえびさんは神か??? (3月24日 20時) (レス) @page31 id: 67461f2801 (このIDを非表示/違反報告)
そらえび(プロフ) - 月乃派さん» リクエストありがとうございます!設定上全編通しては難しいのですが、少しだけ書きます! (3月24日 16時) (レス) id: 034df459ee (このIDを非表示/違反報告)
月乃派(プロフ) - あのー、できれば新航空占拠もやって欲しいです。時間めっちゃかかってもいいのでもし、よければ何卒お願いします🙇 (3月16日 23時) (レス) @page30 id: 67461f2801 (このIDを非表示/違反報告)
そらえび(プロフ) - minbutahuikbさん» ありがとうございます! (1月17日 15時) (レス) @page30 id: bea40306cd (このIDを非表示/違反報告)
minbutahuikb(プロフ) - 凄くおもしろかったです (1月16日 8時) (レス) @page30 id: 5e3e8dde78 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:そらえび | 作成日時:2023年12月4日 22時