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第五十五話 ページ12

その人は、手帳を差し出しながら青鬼に向かって言う。

「すみません。時間かかっちゃって」
「あなたが……鬼?」

呟くように訊ねたのは武蔵先生だ。
髪をほどいた安芸しおり――私にとっては、馴染みの看護師だ――は、手帳をめくる青鬼に言った。

「この中でアルファベット十一桁の単語は一つしかありません。『トリケラトプス』」

該当ページを開いた青鬼は、それを知事に見せつける。

「じゃあ、あなたが……でも、あの発作は本物だった」
「ええ。病気なのは事実です。鬼になる理由が……私にもあるんです」

安芸さんは武蔵先生から目をそらさず、そう伝えた。

「知事、どうぞこちらへ。あなたもご同行願います」

青鬼は二人にそう言うと、一人さっさと歩きだす。
後に続いた安芸さんの隣を、私も歩いた。

「……」
「……」

会話はない。
何を隠そう、安芸さんは最初に緑鬼が銃を乱射したとき、過呼吸を起こした私を助けてくれた人なのだ。
あれから二十四時間も経っていないのに、私たちの立場は変化しすぎている。
何を言えばいいのか、全くわからなかった。



安芸さんを残し、私たちは地下四階へと繋がるエレベーターに乗り込む。
青鬼は迷いなくパスワードを打ち込み、地下四階へのボタンを押した。
B1を過ぎたエレベーターのモニターは、B4へとその表記を変える。

「お先にどうぞ」

到着音が響き、扉が開くと、青鬼は知事にそう声をかけた。
知事、武蔵先生の後に続いて、エレベーターを降りる。

「武蔵先生はそちらで待機。知事とAさんはこちらに来てください」

私たちは青鬼の指示通りに動く。
青鬼の示した場所には、危険生物のマークがついた、重厚な扉があった。

「さあ、配信を始めましょう」



「武蔵刑事に伝えたください。我々からの最後の要求です」

武蔵刑事の代わりに配信に出た和泉に、青鬼は伝える。

「午前十時までに、この病院にまつわるすべての罪を明らかにしてください」

私と知事の間に立つ青鬼の持った拳銃の銃口が、まっすぐに私たちに向けられた。
それに対して、私の鼓動が不自然に早くなることはない。
この状況に、私はどうしようもない“喜び”を感じていた。



わたしはあなたの、人質だ。

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設定タグ:大病院占拠 , 青鬼 , 大和耕一   
作品ジャンル:恋愛
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月乃派(プロフ) - そらえびさん» ありがとうございます!!!そらえびさんは神か??? (3月24日 20時) (レス) @page31 id: 67461f2801 (このIDを非表示/違反報告)
そらえび(プロフ) - 月乃派さん» リクエストありがとうございます!設定上全編通しては難しいのですが、少しだけ書きます! (3月24日 16時) (レス) id: 034df459ee (このIDを非表示/違反報告)
月乃派(プロフ) - あのー、できれば新航空占拠もやって欲しいです。時間めっちゃかかってもいいのでもし、よければ何卒お願いします🙇 (3月16日 23時) (レス) @page30 id: 67461f2801 (このIDを非表示/違反報告)
そらえび(プロフ) - minbutahuikbさん» ありがとうございます! (1月17日 15時) (レス) @page30 id: bea40306cd (このIDを非表示/違反報告)
minbutahuikb(プロフ) - 凄くおもしろかったです (1月16日 8時) (レス) @page30 id: 5e3e8dde78 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:そらえび | 作成日時:2023年12月4日 22時

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