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「なっちゃん、八乙女主任がいないんだけど」
声を潜めて尋ねると、なっちゃんは口許に人差し指を当てて、しーーーっ、と身振りする。
「八乙女主任は自部署で電話番です」
「はぁ?主任が、電話番?」
「薮課長が命令したんですよ。ほら、今カノと元カノのバッティングを避けたんじゃないですか」
「なるほど」
こういうところもタヌキだな。
薮のリスク回避能力にいささか感心しながら、なっちゃんの手伝いを進める。
10時に始まるプレゼン。
9時半にはセッティングを終え、ぱらぱらと部長クラスの管理職も顔を見せ始める。
なっちゃんが言っていたように、これは大きなプレゼンなのだ。
15分前になって、第一会議室に取引先一同がやってきた。
先頭に立つのは、伊野尾だった。
相変わらずの色白で、ふんわりした髪も以前と変わりない。
ただ、その雰囲気には以前はなかった自信があふれている。
うちにいた時は一営業職としてこき使われていた平社員だったけれど、父親の会社にはいってから御曹司として扱われているからか、雰囲気に重みが出ている。
立場が人を作るとは、よく言ったものだ。
「薮さん」
伊野尾の第一声は薮の名前だった。
マシュマロみたいな手ごたえのない微笑みで、伊野尾は薮に華奢な白い手を差し出して握手を求めた。
「いや、今は薮課長ですね……おひさしぶりです」
「こちらこそ、ご無沙汰しております。伊野尾本部長。
本日はお越しいただき、ありがとうございます」
堅苦しく挨拶を交わしていたが、ふたりの短い握手の間に、薮の親指がスルリと伊野尾の手の甲を撫でたこと私はを見逃さなかった。
とっさになっちゃんを見ると、彼女もこちらを見て「うんうん」と激しく頷いている。
握手というか――まだ忘れていない、という合図だ。
その証拠に伊野尾はほんのりと頬を染めて、垂れ目の大きな瞳をうるうるさせている。
八乙女を電話番にしたのもわかる気がする。
ここに空気の読めない八乙女がいたら、嫉妬爆発でたちまち修羅場になったかもしれない。
それはそれで、腐女子的にはオイシイが。
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冬の勿忘草(プロフ) - 読み返したくなるお話し。何度でも食べられる^^*うまうま 始まった頃が懐かしいです…☆ (2019年5月25日 22時) (レス) id: d769e67f4c (このIDを非表示/違反報告)
しろくま(プロフ) - あいさん» あい様、気づけば月末です。いやー、みんな頑張った…やりきりました…。作品を大好きと言っていただけてホントに嬉しいです★温かくこれからも見守ってくださいませ。ありがとうございます。 (2018年5月30日 21時) (レス) id: 0d848a077f (このIDを非表示/違反報告)
あい(プロフ) - しろくまさんの作品が好きすぎて 、やぶひかも好きすぎて、ベストコンビ大賞も1位を取りたくて、同じようなコメントばかりしてごめんなさい!しろくまさんの作品はどれも大好きです!これからもよろしくお願いします。 (2018年5月29日 23時) (レス) id: 47fe4b83c6 (このIDを非表示/違反報告)
しろくま(プロフ) - あいさん» わーんごめんなさい。下はあい様へのレスです〜。 (2018年5月29日 20時) (レス) id: f22c03c885 (このIDを非表示/違反報告)
しろくま(プロフ) - あい様、こちらにもありがとうございます。残り日数が少なくなって、焦り気味でございます。オマケのお話しはやぶひか担みんな大好きナポリタン★一度は書きたかったネタです(笑)reject 本編もまた必ず書きます!よろしくお願いいたします。 (2018年5月29日 20時) (レス) id: f22c03c885 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:しろくま | 作成日時:2018年2月22日 16時