reject 【ybhk】

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「営業二課の薮課長と八乙女主任のことなんです」

白状しろと言わんばかりに、知念は私の目をまっすぐ見た。

「薮課長と八乙女主任が何か？営業のことは、私は何も存じませんよ」

私はさも困惑したふうに眉間にしわを寄せて万年筆をくるりと回した。


慎重に対応しなければ、墓穴をほりかねない。


あの妖しいイケメン二人に何かあったら……後悔してもしきれない。


腐女子歴〇年、初めて見つけた『日々の愉しみ』が無くなるのは嫌だ。



知念は小首をかしげて言う。

「薮課長と八乙女主任は業務上影響を及ぼしかねない、私的な関係に問題がありそうなんですよ。
何かご存じありませんか」


……私的な関係、か。


無論、私はご存じだ。

あの二人、深夜のオフィスで残業のふりしてイチャコラやってた、とか。

薮課長は元カノをうまく使って契約とってる、とか。

八乙女主任は大口の顧客の中島に狙われていた、とか。

八乙女が眼鏡の日は薮の家にお泊りした日で、よーーーく見ると薮のネクタイを借りている、とか。


まだまだある。


「さあ……。
営業二課は同じフロアですど、特に交流もありませんし、別に問題がありそうにはみえませんけれどねぇ」

ここは知らぬ存ぜぬで押し通すしかない。

興味ない、と言わんばかりの冷たい口調を作って、小さいけれど危険な坊やを見やる。


まさか同性愛者であることをやり玉に挙げて退職に追い込むなんて、そんな時代遅れなことはないと信じたいけれど、バレたら確実にあの二人はバラバラにされて閑職に回される。


薮は栄転の名目で海外へ、八乙女はまた地方へ飛ばされるだろう。

それで二度と本社勤務はない。

つまり、会社員としては薮「課長」、八乙女「主任」で終わることになる。



知念は困ったな、と小さくつぶやいてから、「本当にご存じないですか」と念を押してくる。

私は全力の演技力で、「知りませんよ」と言い放った。

「だいたい、どうして私にお尋ねになるんでしょう？
私が営業二課に何か含むところがあると、人事課はお考えなんでしょうか」

ここで話を切って立ち上がろうかとも思ったれど、それでは逆に怪しまれる。

人事課の極秘調査に協力しているかのように、装わなくては。


「営業二課には私の元部下の葉草副主任がおりますから、彼女に聞いてみましょうか？
同じ課の彼女なら、何か知っているかもしれませんよ」

ちっちゃな坊やは興味を示した様子で、お願いできますか、と前のめりになった。

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