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「本当に申し訳ありませんでした。
私のほうからも、しっかり指導しておきますので……」
長身を二つ折りにして深々と頭を下げる薮課長からワンテンポ遅れて、慌てて八乙女主任が頭を下げる。
イケメンふたりが頭を下げる光景を前に、私は言い知れぬ優越感を覚え、手にしたモンブランの万年筆をクルリと指先で回した。
切れ者でスキのない完璧な薮課長。
彼にとって唯一のアキレス腱は、天然ボケの八乙女主任を部下に持ったことだろう。
出世するためには、使えない部下をうまく操縦する手腕も重要だ。
――とんとん拍子で営業課長になった薮が、ミス連発の八乙女主任をどうさばいていくのか、見ものだわ。
お局様と陰口を叩かれながら必死に働いて、やっと総務課長に就いた私の目からすれば、ふたりともまだまだ青臭い。
八乙女は地方回りをして今年本社の営業に着任し、主任になったばかり。
泥臭い外回りも辞さない、カラダを張った営業で成績を上げて本社に栄転してきたのだ。
それに対して薮は、ずっと本社営業一課の最前線に立ち、スマートで迅速な対応が持ち味の営業マンだった。
大きな契約を取ったことで認められ、去年から営業二課の課長となっている。
こないだ学生インターンシップで来てたような気がするのに、もう課長かよ。
心の中で毒づく。
やっとのことで総務課長になった私とはエライ違いだ。
「困るのよね、年度末の忙しい時にこんなミスされちゃあ……。
総務の一番忙しい時だって、わかってるでしょ、八乙女主任……」
わざとらしく溜息をついてネチネチと言ってやる。
薮は誠心誠意を絵にかいたような微笑を浮かべて、
「本当に申し訳ありませんでした。私の指導不足です」
と繰り返す。
ちっ、仕方ない。
暇ならイケメン二人を相手に、もっとねちっこく虐めて楽しみたいけど、そうも言っていられない。
こっちも忙しいのだ。
「じゃあ、報告書をまとめて明日朝9時に提出してくださいね。
メールでなく、紙ベースでお願いします。私がハンコをついたら、部長に報告してください。
詳細はもう部長もご存知ですから」
そう言ってやると、あからさまに八乙女主任の肩から力が抜け、薮課長の顔をうれし気に見る。
ばかめ。
八乙女が自分の部下なら、そう言って怒鳴ってやっただろう。
謝罪の場面でそんなにニッコリ自分の上司に笑顔をむけるか、普通?
安心したような八乙女主任を連れて、薮課長は総務課を後にした。
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冬の勿忘草(プロフ) - 読み返したくなるお話し。何度でも食べられる^^*うまうま 始まった頃が懐かしいです…☆ (2019年5月25日 22時) (レス) id: d769e67f4c (このIDを非表示/違反報告)
しろくま(プロフ) - あいさん» あい様、気づけば月末です。いやー、みんな頑張った…やりきりました…。作品を大好きと言っていただけてホントに嬉しいです★温かくこれからも見守ってくださいませ。ありがとうございます。 (2018年5月30日 21時) (レス) id: 0d848a077f (このIDを非表示/違反報告)
あい(プロフ) - しろくまさんの作品が好きすぎて 、やぶひかも好きすぎて、ベストコンビ大賞も1位を取りたくて、同じようなコメントばかりしてごめんなさい!しろくまさんの作品はどれも大好きです!これからもよろしくお願いします。 (2018年5月29日 23時) (レス) id: 47fe4b83c6 (このIDを非表示/違反報告)
しろくま(プロフ) - あいさん» わーんごめんなさい。下はあい様へのレスです〜。 (2018年5月29日 20時) (レス) id: f22c03c885 (このIDを非表示/違反報告)
しろくま(プロフ) - あい様、こちらにもありがとうございます。残り日数が少なくなって、焦り気味でございます。オマケのお話しはやぶひか担みんな大好きナポリタン★一度は書きたかったネタです(笑)reject 本編もまた必ず書きます!よろしくお願いいたします。 (2018年5月29日 20時) (レス) id: f22c03c885 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:しろくま | 作成日時:2018年2月22日 16時