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「やぶ……ね、きもち良かった?」
うっとりとした声で八乙女が薮の首に両手を伸ばす。
「ま、ギリ及第点ってとこだな」
「嘘っ、あんなにいっぱい出したくせにぃ〜。ほんと厳しいんだから」
「うっせ。ひかるこそ、もう我慢できねぇんじゃねぇか?
ほら、ココ、ガチガチじゃん」
「あんっ、もぉ、イジワルっ」
ふたりの忍び笑いが続き、薮の膝に向かい合わせに座った八乙女は「あっ」とか「いたっ」とか甘い悲鳴をあげる。
――もう、お腹いっぱいだわ。
隣のなっちゃんを見ると、彼女も「ごちそうさまです」と言わんばかりの目で私の方を見た。
ゆっくりゆっくりと観葉植物の陰から離れ、私たちはフロアを後にした。
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「確認をお願いします」
9時ちょうどに、薮課長と八乙女主任が私のデスクの前に立った。
イケメン二人の目は充血していて、昨日と同じスーツ着ている。
ふわぁ、と小さくあくびをした薮課長は、私の目線に「失礼」と謝った。
緊張した面持ちで八乙女が報告書を私に手渡し、頭を下げた。
「申し訳ありませんでした」
私は無言で書類を受け取り、ペラペラとめくってから冷たく言った。
「書式が違います。正しい報告書は様式9の14ですよ?」
「まじか」
八乙女がオフィスにふさわしくない言葉をつぶやき、にらみつける私に気づくと慌てて「あの、その、すみませんでした」と、また頭を下げた。
「リジェクトするので、書き直してください。――あすの朝9時までに」
私はそう言って、万年筆をクルリと回した。
薮課長と八乙女主任は互いに顔を見合わせ、意味深に微笑み合うと「大変失礼しました」と一礼して、営業二課へと帰っていく。
二三歩行きかけてから、薮課長が私の方を振り返った。
「あ、今日は自宅で書き直しますから。残業、しませんよ」
ニヤリと口角を引き上げて笑う薮の顔は――確かに、昨日の夜の薮だった。
――気づいていたんだ。
背中を冷たいものが滑り降りる。
「え?やぶ……、薮課長、どういうことですか?」
きょとんとする八乙女に、薮は「いいから」と囁き、今度こそ営業二課へと帰って行く。
――リジェクトされたのは、私たちだ。
私は切れ者の薮と天然ボケの八乙女の背中を見送った。
「なっちゃんに、教えてあげないとね……」
----おしまい
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冬の勿忘草(プロフ) - 読み返したくなるお話し。何度でも食べられる^^*うまうま 始まった頃が懐かしいです…☆ (2019年5月25日 22時) (レス) id: d769e67f4c (このIDを非表示/違反報告)
しろくま(プロフ) - あいさん» あい様、気づけば月末です。いやー、みんな頑張った…やりきりました…。作品を大好きと言っていただけてホントに嬉しいです★温かくこれからも見守ってくださいませ。ありがとうございます。 (2018年5月30日 21時) (レス) id: 0d848a077f (このIDを非表示/違反報告)
あい(プロフ) - しろくまさんの作品が好きすぎて 、やぶひかも好きすぎて、ベストコンビ大賞も1位を取りたくて、同じようなコメントばかりしてごめんなさい!しろくまさんの作品はどれも大好きです!これからもよろしくお願いします。 (2018年5月29日 23時) (レス) id: 47fe4b83c6 (このIDを非表示/違反報告)
しろくま(プロフ) - あいさん» わーんごめんなさい。下はあい様へのレスです〜。 (2018年5月29日 20時) (レス) id: f22c03c885 (このIDを非表示/違反報告)
しろくま(プロフ) - あい様、こちらにもありがとうございます。残り日数が少なくなって、焦り気味でございます。オマケのお話しはやぶひか担みんな大好きナポリタン★一度は書きたかったネタです(笑)reject 本編もまた必ず書きます!よろしくお願いいたします。 (2018年5月29日 20時) (レス) id: f22c03c885 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:しろくま | 作成日時:2018年2月22日 16時