reject 【ybhk】

★ ページ33

.


「怖いなんて、失礼ねぇ」

不満げに答えたけれど、その言い方は満更でもない時のそれでした。

長年の付き合いの私にはわかります。

「まあ、確かに、薮課長を見ると、どうしても負けず嫌いの私が出てくるのよね」

総務課長はふふふっと笑って、ネイルサロンで手入れしたばかりの綺麗な桜色の爪をひらひらさせます。

「ほら、私ってドSでしょ。SとS――磁石の同じ極が反発するのと同じよ」

「S×Sって……なんか、そういうタイトルのウラツクのお話がありましたね〜」

私は話題を変えました。

総務課長がドSかどうかなんて知りたくないし……ま、だいたい予想はツクけどね。



「真面目な話、薮課長を見ると、自分を見るみたいでイライラするのよ」

総務課長はそう言ってフォークを置き、上品ぶって口許を拭きますが、べったりと白い紙ナフキンについたのは、ケチャップなのか、口紅なのかよくわかりません。

薮課長に自己投影できるなんて、総務課長もなかなかやります。



「俺と、似てるだって？」

この無駄にイケボの声は……

「や、やぶかちょう！」

振り返ると、少し離れた席に、長い脚を気障に組んだ薮課長が座っていて、にやにやしながらこちらを見ていたのです。

その向かいには、真っ赤な耳をした八乙女主任がメニューで顔を隠していました。

「総務課長、ちょっと声がデカすぎますよ？」

薮課長は「ふふん」と鼻を鳴らし、店員さんに「あっ、ナポリタンランチ、2つね」と愛想よく注文しています。



「ほんとにいい店ですね。さすが、総務課長が通うだけのことはある」

嫌味たっぷりに薮課長は私たちを見遣ります。

私は、ここで話していた内容を、急いで脳内プレイバックしました。

幸い、本日はヤバすぎる話まではしておりませんでした。



……あれ？ひょっとしたら、かちょーは薮課長と八乙女主任がいることに気が付いていて、話の内容をセーブしていたのかしら？





総務課長は落ち着いた仕種でコーヒーを飲み、「お褒めいただいてうれしいわ。薮課長」とにっこりと笑いました。

「ここのナポリタンはほんとに美味しくて、おススメなのよ。
あっ、ナポリタンは薮課長のお得意料理でしたわね。
画像、見せていただきましたわ〜」

ほほほ、と総務課長お得意の「ガラスの仮面風高笑い」。


「あれは、俺の……」

もしょもしょと八乙女主任が答えましたけど、もはや薮課長と総務課長の視界に、私と八乙女主任の姿はないようでした。

★→←★おまけ★ベスト・ナポリタン大賞

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す