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その時だった。
「……なにやってんの」
ノックもなしにドアが開き、そこには薮課長がふにゃり、と笑っていた。
無駄に八頭身の、すらりとした細身の身体でドアにもたれかかり、眉にかかる前髪をうっとおしそうに左手でかきあげる。
イケメンだな、おい。
急な上司の登場に、なっちゃんは「ふぁっ」と変な声を出して椅子から立ち上がり、知念はキュッと口許を引き締めたが、反対に目元はデレてる。
……知念は、マジで薮がタイプだろ。
こんな時でも私の腐女子アンテナは作動している。
私は横目で知念の反応を伺い、すぐに薮に視線を戻す。
薮は私なんかには目もくれず、ふんわりと優しい上司の顔をしてなっちゃんに言う。
「葉草副主任、悪いけど、岡本がこれから中島様の所に契約書を届けに行くから、準備してやってくれる?八乙女が同行するから」
「はいっ」
なっちゃんがレモンイエローのスカートを揺らしてアタフタと出て行く。
その後ろ姿を見送ったあと、薮は私と知念に向き直り、後ろ手にドアをゆっくりと閉めた。
パタン、とドアが閉まると、それを合図のように薮課長の唇の端が意地悪く歪んだ。
そして、その目は、誠実でスマートな薮課長ではなく、相手を威圧する帝王のもの。
「……人事課と総務課が揃って、俺らに何か文句でもあるのか?」
薮課長は言いながらかがみ込み、椅子に座った知念の耳元に薄い唇を寄せる。
「聞きたいことがあるなら、直接俺に言えよ、な?……知念?」
知念はぽわーん、と頬っぺたを桃色に染めて、黒目がちな瞳をうるうるさせた。
あ、これは薮に惚れたな。
私はぽかーん、と、口を開けて、薮の術中に堕ちる知念の姿を見つめていたが、はっ、と我に返って急いで顔を元に戻す。
やばい。私ともあろうものが、今、素の腐女子の顔をしていた。
お局様の総務課長の私を忘れていた。
「まあ、文句なんて、人聞きの悪い。
……薮課長と八乙女主任の悪い噂が広がらないよう、どのようにしたら良いのか、方法を考えていましたのよ」
「へぇ。それはご親切に」
ニヤニヤしながら薮課長は私に誠実さのかけらもない声で言い、「……高木だろ?」と言った。
びっくりしたように知念がパチパチと瞬きをする。
「二人とも知らないのか?
人事課長、アイツ、異動や配属替えをネタにして、脅しかけては若い奴らを喰ってるんだ。
高木はアイツに脅されてる」
薮の言葉にぞっとした。
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冬の勿忘草(プロフ) - 読み返したくなるお話し。何度でも食べられる^^*うまうま 始まった頃が懐かしいです…☆ (2019年5月25日 22時) (レス) id: d769e67f4c (このIDを非表示/違反報告)
しろくま(プロフ) - あいさん» あい様、気づけば月末です。いやー、みんな頑張った…やりきりました…。作品を大好きと言っていただけてホントに嬉しいです★温かくこれからも見守ってくださいませ。ありがとうございます。 (2018年5月30日 21時) (レス) id: 0d848a077f (このIDを非表示/違反報告)
あい(プロフ) - しろくまさんの作品が好きすぎて 、やぶひかも好きすぎて、ベストコンビ大賞も1位を取りたくて、同じようなコメントばかりしてごめんなさい!しろくまさんの作品はどれも大好きです!これからもよろしくお願いします。 (2018年5月29日 23時) (レス) id: 47fe4b83c6 (このIDを非表示/違反報告)
しろくま(プロフ) - あいさん» わーんごめんなさい。下はあい様へのレスです〜。 (2018年5月29日 20時) (レス) id: f22c03c885 (このIDを非表示/違反報告)
しろくま(プロフ) - あい様、こちらにもありがとうございます。残り日数が少なくなって、焦り気味でございます。オマケのお話しはやぶひか担みんな大好きナポリタン★一度は書きたかったネタです(笑)reject 本編もまた必ず書きます!よろしくお願いいたします。 (2018年5月29日 20時) (レス) id: f22c03c885 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:しろくま | 作成日時:2018年2月22日 16時