10---やぶ ページ10
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呆然とひかるを見送って、俺はしばらく動くことさえできなかった。
頭を振って気持ちを切り替え、「仕事」に出かける。
夜の街の人込みが俺の狩場だ。
酔っ払いの高笑い、夜の女の嬌声……。
人込みをゆっくりと歩きながら、良さそうな獲物を探す。
ふと、路地裏でもみ合う人影に気づいた。
……仕立てのいいコートを着た中年の男が、少年の腕をつかんでどこかへと連れて行こうとしている……
少年はふわふわした茶髪の色白な子で、薄暗がりの中でもとびきりの美形だと分かる。
少し垂れ目の丸い瞳、ぷくりとボリュームのある唇、すべすべと滑らかそうな頬。
そいつは曖昧な態度で身をよじり、男に「えぇ、今夜は嫌だよぅ……」などと駄々をこねている。
「そんなこと言って、期待してるんだろう?」
「今夜は嫌なんだもん……しつこい人、嫌いぃ」
痴話喧嘩か。
ひかるのように、そいつも身体を売っているんだろう。
でも、そいつの着ている青いPコートは見るからに高級そうで、俺がひかるに貸している着古したダッフルコートとは雲泥の差だ。
男に貢がせたのかもしれない。
――ひかるが男に貢いでもらったのは、卵色のマフラーと手袋。
茶髪のそいつは、少なくとも身体を売る商売のプロなんだろう。
アマチュアのひかるとはなにもかも違う。
「もぉ、やめてよぉ…やだ、やだよ、痛いぃ……」
媚びを売るためとは思えない切迫感。
男がそいつの腕を強引につかみ、路地のさらに奥へと連れ込もうとしている。
頭で考えるより、行動の方が早かった。
「あっ、すいませんっ」
路地の隅に重ねてあったゴミ箱を思い切り蹴っ飛ばす。
ガランガランと派手に転がるゴミ箱に、揉み合う二人がハッとしたようにこちらを見た。
そのまま「わ〜‼ごめんなさい!」と言いながら二人の間をすり抜ける。
すり抜けながら、そいつの手を取り、「走れっ」と叫ぶ。
そいつは目を見開いて……次の瞬間にはギュッと力強く俺の手を握り返し、全力で走りだした。
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しろくま(プロフ) - 有さん» 有様、蔵之介様も素敵ですね!出来れば蔵之介様にはちぃ様を手込めにして欲しい←病気。情報屋のお話しはまた必ず書きますので、よろしくお願いいたします!懲りずに短編を連載中なので、そちらも。宣伝(笑)コメントありがとうございました! (2018年1月9日 7時) (レス) id: f22c03c885 (このIDを非表示/違反報告)
しろくま(プロフ) - ありこさん» ありこ様、おはようございます。前作、めっちゃ長かったのに、ファンなんて…嬉しくて倒れそうです。ありがとうございます。少し時間をおいて、またこの二人でお話を書きますので、ぜひまた遊びにきてくださいね!きゅんきゅんしていただけるように頑張ります。 (2018年1月9日 7時) (レス) id: f22c03c885 (このIDを非表示/違反報告)
しろくま(プロフ) - まっつんさん» まっつん様、おはようございます!楽しんでいただけて嬉しいです★今回はどーてーを光君に捧げる薮様がメインテーマと言う妄想話です(笑)どうぞこれからもよろしくお願いいたします。コメントありがとうございました! (2018年1月9日 7時) (レス) id: f22c03c885 (このIDを非表示/違反報告)
有(プロフ) - あぁぁぁあー長瀬くん!!なるほど!私の脳内では勝手に佐々木蔵之介さんに変換されてました。笑 とっても面白くて、毎日楽しみにしてました!ありがとうございました!!わがままですが、情報屋の続きをもっと読みたいです(●´ω`●) (2018年1月9日 1時) (レス) id: 074c0f6b92 (このIDを非表示/違反報告)
ありこ(プロフ) - はじめまして、前作からしろくまさんのファンです。2人の出会いからラストまで始終可愛いくてきゅんきゅんしました。とても面白かったです。素晴らしいお話をありがとうございました! (2018年1月8日 23時) (レス) id: 0a1f704509 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:しろくま | 作成日時:2017年12月26日 1時