4---やぶ ページ4
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「部屋って言っても、まあ、元は倉庫だからさ、こんなもんなんだけど……いいか?」
言い訳しながら錆びついた引き戸を力を込めて開ける。
ギシギシキーキーと耳障りな音がして、いつもなら嫌な気がするところだけど、今夜は違う。
ひかるはしおらしく両手で小さなリュックを持っていて、白い息をふぅ、と吐き出してうれしそうに笑っている。
「俺、うれしいよ。ちゃんとした部屋って、うちを出てから初めてだもん」
10畳ほどのがらんとした空間が俺の城だ。
なんか、以前、イケナイ「葉っぱ」を育てるために使っていたとかで、壁にはずらっと棚が設えてある。
「こっちにトイレとシャワーがあって……あ、棚があるから、ひかる、使っていいよ。
俺の服はだいたいここに置いてるから、寒いんならコートとか貸してやるよ」
裸電球がぶら下がった中で、ひかるは珍しそうにきょろきょろと部屋を見回しながら、短くて乱雑な俺の説明をおとなしく聞いていた。
「……ねえ、俺、どこで寝たらいい?」
もっともな質問に、俺は部屋の隅のベッドを黙って指さした。
「……あれはやぶのだろ」
「いいよ、また寝床はどっかから手に入れてくる」
「でも、俺は居候なのに、やぶのベッドを取るわけにはいかない」
案外、強情なひかるに苛立って、「うぜぇな、俺がいいって言ってんだろ」と思わず強く言い捨てる。
「――うぜぇな、俺もいいって言ってるだろ」
ひかるが俺の真似をして、舌ったらずに言い、ふたりは顔を見合わせて笑った。
「じゃ、やぶ、今夜は一緒に寝よ?寒いし、ふたりの方があったかいでしょ」
確かに……壁と床と天井はあっても、暖房器具のないだだっ広い部屋は、屋外よりちょっとだけましという程度だ。
ひかるのかさついた唇はやっぱり青いし、顔色だってよくない。
荒れた指先も青ざめている。
「……わかったよ」
もうすぐ6時。
俺もひかるも今夜の稼ぎを互いに見せ合い、着替えをして、冗談を言い合いながら背中合わせに布団に入った。
――ひかるの体は頼りなく痩せていて、冷え切っていた。
家出してから、ギリギリの生活を送っていたことが伝わって来た。
帰るところがあれば、帰ればいいのに。
そんなことを思いながら、俺は眠りに落ちた。
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しろくま(プロフ) - 有さん» 有様、蔵之介様も素敵ですね!出来れば蔵之介様にはちぃ様を手込めにして欲しい←病気。情報屋のお話しはまた必ず書きますので、よろしくお願いいたします!懲りずに短編を連載中なので、そちらも。宣伝(笑)コメントありがとうございました! (2018年1月9日 7時) (レス) id: f22c03c885 (このIDを非表示/違反報告)
しろくま(プロフ) - ありこさん» ありこ様、おはようございます。前作、めっちゃ長かったのに、ファンなんて…嬉しくて倒れそうです。ありがとうございます。少し時間をおいて、またこの二人でお話を書きますので、ぜひまた遊びにきてくださいね!きゅんきゅんしていただけるように頑張ります。 (2018年1月9日 7時) (レス) id: f22c03c885 (このIDを非表示/違反報告)
しろくま(プロフ) - まっつんさん» まっつん様、おはようございます!楽しんでいただけて嬉しいです★今回はどーてーを光君に捧げる薮様がメインテーマと言う妄想話です(笑)どうぞこれからもよろしくお願いいたします。コメントありがとうございました! (2018年1月9日 7時) (レス) id: f22c03c885 (このIDを非表示/違反報告)
有(プロフ) - あぁぁぁあー長瀬くん!!なるほど!私の脳内では勝手に佐々木蔵之介さんに変換されてました。笑 とっても面白くて、毎日楽しみにしてました!ありがとうございました!!わがままですが、情報屋の続きをもっと読みたいです(●´ω`●) (2018年1月9日 1時) (レス) id: 074c0f6b92 (このIDを非表示/違反報告)
ありこ(プロフ) - はじめまして、前作からしろくまさんのファンです。2人の出会いからラストまで始終可愛いくてきゅんきゅんしました。とても面白かったです。素晴らしいお話をありがとうございました! (2018年1月8日 23時) (レス) id: 0a1f704509 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:しろくま | 作成日時:2017年12月26日 1時