16---やぶ ページ16
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多分、俺は青い顔をしていたんだろう。
ひかるが「大丈夫?」と俺の顔を覗き込み、「俺のこと、キモチ悪い……?」とつぶやいて、椿の花が落ちるようにコテンと首を落としてうつむいた。
ひかるの膝の上で、細い指が小さく震えている。
あの日、初めてひかるに出会った時――あの時もひかるの指は震えていた。
「ひかるはっ、キモチ悪くなんかっ、ないよっ」
俺はそう言って、ひかるの震える指をぎゅっと握る。
ひかるの指は冷たくて、カサカサと荒れていた。
「……やぶ?泣いてるの?」
ひかるがなんだか困ったような顔で視線を上げ、「俺のせいで泣いちゃ、ヤダ」と少し拗ねたように言った。
「ひかるのせいで泣いてるんじゃねーよ。ひかるのために、泣いてんだ」
――強がって見せたけど、泣いてる、という事実に変わりねぇよな。
「ありがと、やぶ。……やぶに話してよかった……」
ひかるは小さく微笑み、俺の涙を袖口でそっとぬぐってくれた。
そして、ひかるは目を閉じて俺の唇にふわっと自分の唇を重ねた。
1秒もない、触れただけのキス。
でも、それだけで、ひかるから愛情や、優しさや、喜びといった、柔らかくて温かい気持ちが伝わってきた。
「ひかるは、どうして優しくできる?そんな、苦しい思いをしてきたのに……」
「俺、優しくなんかないよ?」
そう言って、ふふふっ、とひかるは笑う。
「ただね、すごく苦しかった時でも、絶対にどこかに俺を助けてくれる人がいるはずだって信じてた。そう信じないとおかしくなりそうだったんだ。
――きっとね、それが、やぶだったんだよ」
目を細め、ひかるは俺の目を覗き込むようにして見つめてくる。
「やぶのこと、待ってたんだ」
その言葉を聞いて、何か言いようのない衝動がこみ上げた。
――抱きたい。
さっきまで、ひかるをいいように扱って苦しめてきたオトナに腹を立てていたのに。
この身勝手な俺ときたら始末に負えない。
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しろくま(プロフ) - 有さん» 有様、蔵之介様も素敵ですね!出来れば蔵之介様にはちぃ様を手込めにして欲しい←病気。情報屋のお話しはまた必ず書きますので、よろしくお願いいたします!懲りずに短編を連載中なので、そちらも。宣伝(笑)コメントありがとうございました! (2018年1月9日 7時) (レス) id: f22c03c885 (このIDを非表示/違反報告)
しろくま(プロフ) - ありこさん» ありこ様、おはようございます。前作、めっちゃ長かったのに、ファンなんて…嬉しくて倒れそうです。ありがとうございます。少し時間をおいて、またこの二人でお話を書きますので、ぜひまた遊びにきてくださいね!きゅんきゅんしていただけるように頑張ります。 (2018年1月9日 7時) (レス) id: f22c03c885 (このIDを非表示/違反報告)
しろくま(プロフ) - まっつんさん» まっつん様、おはようございます!楽しんでいただけて嬉しいです★今回はどーてーを光君に捧げる薮様がメインテーマと言う妄想話です(笑)どうぞこれからもよろしくお願いいたします。コメントありがとうございました! (2018年1月9日 7時) (レス) id: f22c03c885 (このIDを非表示/違反報告)
有(プロフ) - あぁぁぁあー長瀬くん!!なるほど!私の脳内では勝手に佐々木蔵之介さんに変換されてました。笑 とっても面白くて、毎日楽しみにしてました!ありがとうございました!!わがままですが、情報屋の続きをもっと読みたいです(●´ω`●) (2018年1月9日 1時) (レス) id: 074c0f6b92 (このIDを非表示/違反報告)
ありこ(プロフ) - はじめまして、前作からしろくまさんのファンです。2人の出会いからラストまで始終可愛いくてきゅんきゅんしました。とても面白かったです。素晴らしいお話をありがとうございました! (2018年1月8日 23時) (レス) id: 0a1f704509 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:しろくま | 作成日時:2017年12月26日 1時