11---やぶ ページ11
.
そいつはビルの陰に逃げ込んだあとも、はぁはぁと短い息を繰り返している。
普段は走ることなんてないんだろう。
華奢な肩が呼吸をするたびに上下している。
「……た、たすかったよぉ、ありが、とぉ」
しばらくして、ようやくそいつは礼を言って、俺にニコリと笑いかけた。
「大丈夫か?」
「うん。ほんと、助かった。まじ、やばかったぁ……」
ようやく息が整ったらしく、そいつはふぅ、と大きくため息をついてから、眉をしかめて男に握られていた右腕を擦る。
「ああ、痛かったあ。あいつ、金払い悪くって、断ってたんだけどねぇ、しつこくてぇ」
「……これ?」
趣味の悪いクロコダイル革の長財布を目の前にぶら下げてやる。
男の脇をすり抜ける時に、ちょっと「仕事」をしてやった。
そいつは大きな目をより大きくして、「あはははは」と笑いだす。
「いい気味だよぉ!……俺、Kっていうんだ」
「俺、やぶ」
「やぶ?やぶやぶやぶ……よし、覚えたぁ」
Kと名乗ったそいつはニコニコ笑い、ポケットから小さなブルーのカードを出した。
「これ、名刺。お近づきのシルシに貰って?」
K、と印刷されたそれには、携帯番号と、『男女の仲を解決します』とあった。
よほど不審そうな顔をしていたのか、Kはひらひらと手のひらを振りながら、「俺さぁ、いろんなところから情報貰って、色恋沙汰の問題解決してんの」と言う。
「まあ、そーは言っても、まだ商売にはならなくって、身体売ってるんだけどねぇ」
Kは残念そうに言い、それからいかにも商売用の顔になって、俺の胸にしなだれかかってくる。
「ねぇ、やぶぅ、良かったら俺を買わない……?まだ、今夜は仕事してないんだもん……」
甘く囁き、ふわふわの髪の毛をこすりつけてくる。
猫みたいだな、こいつ。
「ダメ。俺、こーいうの、タイプじゃねぇから」
「ぇぇぇ」
Kは小さく驚きの声を上げてから、ふふふ、と笑う。
「やぶぅは、好きな人がいるんだぁ……その人のために貞操を守ってんだねぇ、えらいねぇ」
「なっ……何言ってんだ」
絶句する俺に、Kは「えらいねぇ」と繰り返し、ポンポンと俺の頭を撫でた。
こうして、俺とKは友達になった。
369人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
しろくま(プロフ) - 有さん» 有様、蔵之介様も素敵ですね!出来れば蔵之介様にはちぃ様を手込めにして欲しい←病気。情報屋のお話しはまた必ず書きますので、よろしくお願いいたします!懲りずに短編を連載中なので、そちらも。宣伝(笑)コメントありがとうございました! (2018年1月9日 7時) (レス) id: f22c03c885 (このIDを非表示/違反報告)
しろくま(プロフ) - ありこさん» ありこ様、おはようございます。前作、めっちゃ長かったのに、ファンなんて…嬉しくて倒れそうです。ありがとうございます。少し時間をおいて、またこの二人でお話を書きますので、ぜひまた遊びにきてくださいね!きゅんきゅんしていただけるように頑張ります。 (2018年1月9日 7時) (レス) id: f22c03c885 (このIDを非表示/違反報告)
しろくま(プロフ) - まっつんさん» まっつん様、おはようございます!楽しんでいただけて嬉しいです★今回はどーてーを光君に捧げる薮様がメインテーマと言う妄想話です(笑)どうぞこれからもよろしくお願いいたします。コメントありがとうございました! (2018年1月9日 7時) (レス) id: f22c03c885 (このIDを非表示/違反報告)
有(プロフ) - あぁぁぁあー長瀬くん!!なるほど!私の脳内では勝手に佐々木蔵之介さんに変換されてました。笑 とっても面白くて、毎日楽しみにしてました!ありがとうございました!!わがままですが、情報屋の続きをもっと読みたいです(●´ω`●) (2018年1月9日 1時) (レス) id: 074c0f6b92 (このIDを非表示/違反報告)
ありこ(プロフ) - はじめまして、前作からしろくまさんのファンです。2人の出会いからラストまで始終可愛いくてきゅんきゅんしました。とても面白かったです。素晴らしいお話をありがとうございました! (2018年1月8日 23時) (レス) id: 0a1f704509 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:しろくま | 作成日時:2017年12月26日 1時