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腹一杯になったおれたちは、ふと顔を見合わせてどちらからともなく笑いあった。
ヤブの脚がイタズラにおれの足先を軽く突っつく。
「ヒカル、鼻の頭に蜂蜜付いてるぞ」
「え?!」
慌てたおれの手をヤブが捕まえたと思うと顔が近づき、ペロッと鼻先を舐めた。
「……うま」
ニヤニヤするヤブは、もうすっかりいつもの調子に戻っている。
本来、鼻を舐めるのは、
おれみたいな下っ端にする振る舞いじゃない。
でも、それはくすぐったくって、恥ずかしいけどたまらなく嬉しくて──。
おれはフワフワした心持ちで、照れ隠しにヤブがやったのと同じように長いその脚を突っついた。
「ヤブ、何するんだよ!」
「疲れてる時には甘いもんがいいんだろ?ヒカルが言ったんじゃん。もったいないから舐めちゃった」
「もったいないからって、何でもかんでも舐めちゃダメだろ」
おれは怒ったフリをして、月を映す湖面めがけて小石を投げた。
「違う、ヒカルだから舐めたんだ。他のヤツの鼻なんか、俺が舐めるわけないだろ」
ヤブも石を水面に投げ込む。
円を描く波がたち、湖を光らせた。
「ヒカルだからだよ──」
静かな声に、応えることが出来なくって、おれは黙ったままヤブの鼻先を汚す泥を払った。
「ほら……キレイになった」
ソッとヤブの鼻の頭を舐めたおれに、ヤブは目を細めて尻尾を絡ませてくる。
静かな夜におれたちは話しをすることもなく、並んで座っている。
それだけで何もいらなかった。
──ヤブがおれを番に選ぶのは、静かな夜から数年後のことだった。
---END♡
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しろくま(プロフ) - ◇さん» ◇さま、コメントありがとうございます。お褒めいただき嬉しく思います。今日は2人の結婚記念日でもあります。ステキなクリスマスをお過ごし下さい。 (2022年12月25日 7時) (レス) @page49 id: d7e22074ad (このIDを非表示/違反報告)
◇(プロフ) - 最終話のタイトル回収があまりにも美しくて…。執筆お疲れ様でした!次回作も心待ちにしております (2022年12月24日 2時) (レス) @page48 id: 3e4ffd633a (このIDを非表示/違反報告)
しろくま(プロフ) - 9さん» その涙はひかちゃんのハンドタオルで拭いて差し上げます🥰 (2022年10月24日 13時) (レス) @page44 id: d7e22074ad (このIDを非表示/違反報告)
9(プロフ) - …滂沱……最高です! (2022年10月24日 9時) (レス) @page44 id: a1a90f72f9 (このIDを非表示/違反報告)
しろくま(プロフ) - ちちちさん» ちちち様、ありがとうございます。どうしても薄暗い健吉ひかる…。次は甘々の二人を!!! (2022年7月27日 8時) (レス) @page35 id: d7e22074ad (このIDを非表示/違反報告)
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