小さなお願い【ybhk短編】

続　セイレーン【リアル風設定】 ページ29

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俺はひかるから来たLINEのメッセージをしみじみと眺める。

……Wキャストの女優さん、どちらを見学したらいいかって？

「こっちがいいよ！」なんて、俺が言う訳ない──両方見に来たらいいって答えるに決まってる。

もちろん、ひかるは分かってる。

分かってるから、こんな遠回しなこと言ってくるんだ。
《何回も見たいから、この回とこの回に行く》ってハッキリ言えばいいのにさ。


──そんなん、遠慮深いひかるは言えっこないな。


俺は肩を揺らして笑う。


ひかるがいるから、俺は歌ったり踊ったりできるのに。

キラキラした瞳で『やぶの歌すごく好き』って舌っ足らずに言ってくれた、あの時から──ずっとそうだ。
歌えばひかるが俺をみて笑ってくれる。
あの瞳が欲しくて歌っているんだ。


ひかるを惹きつけておくために、俺は歌う。


なぁ、ひかる？
俺が歌うのはお前に聞かせたくて──お前を俺のものにしたくて……。



深呼吸してからスマホの画面に指を滑らせた。


《どちらも素晴らしいから2回見学に来たらいいよ！見学の日程が難しかったら、俺がいつでも1人でアカペラでひかるのために歌うよ》

アカペラで歌うって意味、あいつ分かるかな？


メッセージを送ってすぐに《アカペラをお願いします》と返ってきた。

ひょっとしたら意味が分かっているんじゃねぇかな、こいつ。

俺はすぐにタクシーを呼んだ。
何かしらの期待を抱きながら。







※大千穐楽おめでとうございました。

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