小さなお願い【ybhk短編】

セイレーン【リアル風設定】 ページ28

.


---hk side



LINEでメッセージを送信して、しばらく画面を眺めた。

Wキャストの女優さん、お二人とも素敵だからこそ、どちらの回を観たら良いかって訊ねてみた。
優しいアイツのことだから、「二人とも素晴らしいからどっちも観に来いよ」って返事してくれるだろう。

そしたら2回見学する言い訳が立つ──。

ホントは全部観たい。
やぶの舞台、全部観たいんだ。

でも、そんなむちゃくちゃは出来ないから、せめて2回くらいは。

やぶの歌声はいつだっておれの魂の奥底で高らかに響いていて、アイツがいてもいなくても(何ならおれの耳の具合にさえ関係なく)、おれはやぶの歌声のしもべだ。

がんじがらめに捉われ、逃げることなんかできない。
そう、初めて会った幼いあの日から、もうずっと。

歌声で船乗りを誘って難破させたセイレーンみたいに、やぶの声はおれを惹きつけて離さない。
おれはやぶの歌声に魅入られてしまっている。

──けど、アイツにそんなつもりは全然ないし、やぶに近づけるなら難破しても良いとすらおれが考えているなんて想像すらできないだろう。

クスクスと笑いが込み上げてくる。

狂いそうな思慕の念を隠して、こうやってさりげなく舞台をどうにか2回観ようと柄にもなく画策してんだぞ。
お前、知らないだろ？
おれのこと何でも分かってるって顔してるけど、おれがお前にどんな気持ちでいるかなんて──。

ピロン、とスマホが鳴った。

思った通りやぶからの返事。

《どちらも素晴らしいから2回見学に来たらいいよ！見学の日程が難しかったら、俺がいつでも1人でアカペラでひかるのために歌うよ》

やぶのやつ──。

おれは難破すると分かっていながらやぶに近づくため《アカペラをお願いします》と返信した。



　


※アカペラを聞けるのはひかるくんだけ。快復を祈ってます

続　セイレーン【リアル風設定】→←春告げ鳥【縄文のyb×弥生のhk】

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す