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俺も十七になると、学校の傍ら商店の仕事を手伝うようになった。
「宏太、伊野尾屋さんの坊ちゃんが、お前が忘れて行った財布を届けて下すったよ。お得意様にご迷惑をお掛けして、どうするんだい」
母からは叱られ、父からは「宏太を一人で行かしちゃならんな。次から宏太を遣いに出す時は、必ずひかるを供につけなさい」と、しょっちゅう得意先に忘れ物をしてくる俺の供に、父はしっかり者のひかるを選んでくれた。
一つ年下のひかるは十六、すらりとした立姿に町の娘たちが色めきたっていたが、ひかるはいつも鉢巻姿で地味なお仕着せを着ていた。
そんなひかるが俺の供につく時は、俺のお下がりの小ざっぱりした着物に、薮商店の染め抜き半纏を羽織る。
すると、驚くほど見栄えがして、風呂敷包を恭しく抱えたひかるを供に、大通りを歩くと俺たちは注目の的だった。
得意になって「これは俺のひかるだぞ」と町中に言いふらしたい気持ちと、ひかるを誰にも見せたくない気持ちに、俺はいつもより大股で歩くのだった。
十七になったひかるは仕事ぶりが認められて、大阪の支店に行くことが決まった。
早い方がいいだろうと、師走になると同時にひかるは汽車で大阪に向かうことになった。
明日、ひかるは大阪に行ってしまう。
大阪ってどんな町なんだろう。
時折上京してくる大阪店の者は、みな口も手も達者で、あんな早口の者たちばかりの中で、ひかるはやっていけるんだろうか。
そんなことをボンヤリ考えながら、いつものように風呂に浸かった俺は、いい湯加減に思わず長い吐息をついた。
こんなにいい湯加減の風呂は久々だ。
ひかるは表向きの仕事が増えてから、もう風呂焚きをすることはなくなっていた。
代わりに奉公人が交代で湯を沸かしてくれるが、どうしてもひかるの湯とは違っていた。
でも、今夜の風呂は……まるで……。
ハッとした。
窓から焚き口を見ると、見慣れた懐かしい背中があった。
「ひかる！」
思わず声が出た。
相変わらずひかるはこちらを見ることはない。
小窓から俺の姿が見えるわけないのに、あるじの肌を見ないようにしているんだ。
「ひかる、どうしたんだ？明日は出発だろ」
「うん、最後だから、久しぶりに風呂でも焚いてやろうかなって思って。湯加減どう？」
「あ、ああ、ひかるの焚いてくれた風呂は最高だよ。すげぇ気持ちいい」
「そっか」
素っ気なく答えるひかるの背中。
丸めた痩せた背中。
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しろくま(プロフ) - ◇さん» ◇さま、コメントありがとうございます。お褒めいただき嬉しく思います。今日は2人の結婚記念日でもあります。ステキなクリスマスをお過ごし下さい。 (2022年12月25日 7時) (
レス) @page49 id: d7e22074ad (このIDを非表示/違反報告)
◇(プロフ) - 最終話のタイトル回収があまりにも美しくて…。執筆お疲れ様でした！次回作も心待ちにしております (2022年12月24日 2時) (レス) @page48 id: 3e4ffd633a (このIDを非表示/違反報告)
しろくま(プロフ) - 9さん» その涙はひかちゃんのハンドタオルで拭いて差し上げます🥰 (2022年10月24日 13時) (レス) @page44 id: d7e22074ad (このIDを非表示/違反報告)
9(プロフ) - …滂沱……最高です！ (2022年10月24日 9時) (レス) @page44 id: a1a90f72f9 (このIDを非表示/違反報告)
しろくま(プロフ) - ちちちさん» ちちち様、ありがとうございます。どうしても薄暗い健吉ひかる…。次は甘々の二人を！！！ (2022年7月27日 8時) (レス) @page35 id: d7e22074ad (このIDを非表示/違反報告)
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