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ヒカリンが俺のリクエストに合わせた料理を作ってくれ、出来上がったものを俺が食べて一言感想を言ったらCMに入る。
たったそれだけの段取りだけど、どんな料理が出てくるかは、ホントにその場にならないと教えてくれないらしい。
「え?マジで本番まで内緒なんですか?」
驚いた俺にヒカリンは小さく頷き、それから小声で「トマト、入れてないから安心して下さいね」と、ペロリと唇を舐める。
その滑らかな舌がイヤに色っぽく見え、うろたえた。
うろたえた俺は頭をかいて、抱えた資料を持ち直す。
「あー……スミマセン。俺の苦手なもの、調べてくださったんですね?子供の頃からトマトだけ苦手で」
出演が決まった際に番組に送った俺の資料には、苦手な食物は「なし」と書いたはずだった。
料理を作ってもらうのに、選り好みはしたくなかったし、トマトだって食えない訳じゃない。
それなのに、ヒカリンは事前にキッチリ調べてくれたんだろう。
──でも、どうやって?
俺がトマト苦手だなんて知ってるのは、プラベで付き合いがあるヤツしかいないのに。
ちょっとミステリアスなヒカリンは、何も知らないって顔で「手づかみって面白いリクエストですね、やぶさん」と目尻に皺を寄せて笑う。
こうして見ると、なかなか可愛らしい人のようだ。
見た目はめっちゃイマドキの感じなのに、ヒカリンの話し方は丁寧でギャップがある。
話し方だけじゃなくって……仕草のひとつひとつが優雅っての?
小さい子供のいるママ世代に人気だというのも、こういうキャラクターのおかげだろうな。
「俺、サッカー観てる時は画面から目を離したくないんですよ。いつ良い場面になるか分かんないから」
単に面倒くさいだけなのに、ついカッコつけたくって気取ったことを言ってしまったけど、まぁ半分は本当だからいいだろう。
趣味じゃなく、サッカーは俺にとっては仕事だから、ボヤボヤ見ているわけにはいかない。
「そうですよね、やぶさんにとってサッカーは大事なお仕事だから、気が抜けないですもんね」
俺の取ってつけたようなクサい返答にも、ヒカリンは感心したようにうんうん頷いてくれる。
ピュアっぽいのは演技じゃねぇな、これ、ほんまもんの天然……。
「じゃ、本番よろしくお願います」
再び丁寧な挨拶を残して、ヒカリンはレギュラー陣の元へと小走りに立ち去った。
その立ち去った後に、美味しそうないい匂いがする気がしたのは、俺の腹が減っているせいだろう──きっと。
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しろくま(プロフ) - Qさん» Q様、あの相合い傘をどうにかお話に入れたくて、こうなりました!アツアツの2人はいつまでもアツアツのままです!😊 (2022年1月24日 19時) (レス) id: d7e22074ad (このIDを非表示/違反報告)
Q(プロフ) - キャーーー!ご結婚おめでとうございます!! (2022年1月24日 8時) (レス) @page50 id: a1a90f72f9 (このIDを非表示/違反報告)
しろくま(プロフ) - べすさん» べす様、ご覧いただきありがとうございます。今まで書いた中では一番糖度の高いひかにゃを目指していたので可愛いとお褒めいただけ、嬉しい限りです。そして夜分遅くに、我慢出来ずぶっ込みました。実現する日が来ますように。 (2022年1月18日 22時) (レス) id: d7e22074ad (このIDを非表示/違反報告)
べす(プロフ) - しろくま様*おひさしぶりです。完結おめでとうございます。読ませていただきました。応援したくなるくらいふたりが可愛くて面白かったです。“夜分遅くに“を入れてくるしろくま様の機動性はさすがですネ^^。 (2022年1月17日 23時) (レス) id: d251bf862e (このIDを非表示/違反報告)
しろくま(プロフ) - みるみるみるきーさん» みる様、チュー迄で終わってしまった自分が悲しい…次は必ずベッドにたどり着くよう頑張ります。夜分遅くに、リアルで実現する日を待ち焦がれています!最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。 (2022年1月17日 10時) (レス) id: d7e22074ad (このIDを非表示/違反報告)
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