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ひかるはマシュマロみたいな顔でこっちを見ている。
まさかシャンパン一口で酔っ払ってはいないだろうが、『好き』って言葉を花びらみたいな軽やかさで口にしていた。
「……いきなり、そんなこと言うなよ」
先を越された気がして、驚くほど低い声が出た。
目を泳がせるひかるは、グラスを握ったまま凍りついたように動かない。
まるで……そう、自分が何を言ったのか、わかってないような。
「ひかる、わかってんの?」
訳のわからない苛立ちに、ひかるの手からグラスを取り上げた。
シャンパンを一気に飲み干すと、強引な俺にひかるの指先が小鳥のように震えた。
「……おれ、なんか……ごめんなさい、変なこと言った……?」
──やっぱりわかってない。
ひかるは頭に浮かんだ言葉をフワフワ口にしただけじゃないのか?
その疑念に急かされるように、「変って何が?ひかる?ちゃんと答えて」と詰め寄った。
ひかるはフッと吐息をつくと、真っ直ぐにこちらに柔らかな眼差しを向ける。
「おれ、やぶのこと、好き。やぶを好きになっちゃった。ごめんね」
《言わなきゃ気持ちは伝わんないぞ》
昼間、ゆうとに得意げに言った自分の言葉が蘇る。
好きって気持ちを伝えてくれたのに、俺に謝るひかるのいじらしさに胸が詰まった。
今まで『好き』と口にして、傷ついたことがどれほどあるんだろう。
逃げるようにバッグを肩に掛け、ひかるは微笑む。
「ごめんね、もう会わないから。やぶ、今日はありがとう。幸せだったよ」
ひらりと背を向ける潔さが哀しい。
迷いなくひかるは玄関に向かう──もう恋を諦めたつもりで。
「ひかる!待てよ!」
強引に足を止めさせ、背中からひかるの体を抱きしめた。
柔らかいプラチナの髪がくすぐったい。
「何で謝るんだよ……ひかる。何にも変じゃねぇよ。俺もひかるが好きだ」
カッコ悪いことに、俺の声は震えていた。
でも、そのカッコ悪いところも、全部俺だ。
「俺、カッコいい告白は出来ねぇんだよ──改めて言うよ、ひかるが好きだ。付き合って欲しい」
ぎゅっと腕に力を入れた。
ひかるに気持ちが伝わるように。
ゆっくりと振り返ったひかるの瞳に、切羽詰まった俺が映っていた。
「カッコ悪い俺でもいいか?」
目を伏せて、ひかるは頭を横に振る。
「やぶはカッコ良いよ──」
次にどうすべきか、さすがの俺もわかっていた。
優しく唇を重ねた俺にひかるは「やっぱりカッコいい」と恥ずかしそうに笑ってくれた。
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しろくま(プロフ) - Qさん» Q様、あの相合い傘をどうにかお話に入れたくて、こうなりました!アツアツの2人はいつまでもアツアツのままです!😊 (2022年1月24日 19時) (レス) id: d7e22074ad (このIDを非表示/違反報告)
Q(プロフ) - キャーーー!ご結婚おめでとうございます!! (2022年1月24日 8時) (レス) @page50 id: a1a90f72f9 (このIDを非表示/違反報告)
しろくま(プロフ) - べすさん» べす様、ご覧いただきありがとうございます。今まで書いた中では一番糖度の高いひかにゃを目指していたので可愛いとお褒めいただけ、嬉しい限りです。そして夜分遅くに、我慢出来ずぶっ込みました。実現する日が来ますように。 (2022年1月18日 22時) (レス) id: d7e22074ad (このIDを非表示/違反報告)
べす(プロフ) - しろくま様*おひさしぶりです。完結おめでとうございます。読ませていただきました。応援したくなるくらいふたりが可愛くて面白かったです。“夜分遅くに“を入れてくるしろくま様の機動性はさすがですネ^^。 (2022年1月17日 23時) (レス) id: d251bf862e (このIDを非表示/違反報告)
しろくま(プロフ) - みるみるみるきーさん» みる様、チュー迄で終わってしまった自分が悲しい…次は必ずベッドにたどり着くよう頑張ります。夜分遅くに、リアルで実現する日を待ち焦がれています!最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。 (2022年1月17日 10時) (レス) id: d7e22074ad (このIDを非表示/違反報告)
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