アツアツを召し上がれ【ybhk】

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子どもの頃……事務所に入ってテレビに出るようになってからも、友達と外で遊び回って生傷が絶えなかった俺。
いつもどこかしらに絆創膏を貼ってるような、能天気なガキだった。

写真の中のひかるが滲ませる、寂しげな陰なんか少しもない、幸せな子ども時代を過ごしたんだよな……。


──ひかるはどんな子どもだったんだろう。


今日会ったばかりのひかるのこと、俺は何にも知らない。
そういや、俺、ひかるの名字も、出身地も知らない。
イントネーションに、どっか北の地の生まれじゃないかと想像するけれど。


俺は幼いひかるの写真に、今日会ったばかりだと改めて感じた。


いや、人間の感情に時間は関係ねぇだろ！！
人を好きになるのに理屈なんかない！！
ついでに言えば、性別なんか……関係ねーし！！
ほら、今はダイバーシティ、多様性の時代だぜ！！
サッカーだって、様々なルーツをもつ選手が合わさって、強いチームが出来るんだからな！！


そんなことを考えて、変に気合いを入れた。

リビングからは、留守番の山田に気を使って声をかけるひかるの声が聞こえる。
俺は靴を履きながら「行くぞ！」って声を張った。

パタパタとスリッパの音をさせてやって来たひかるは、急いでスニーカーを履いている。

｢ごめん、やぶ、待たせたね｣
｢いや、急かして悪かった｣

カッコつけて頷いてみせると、明るい髪を揺らして｢ありがと｣って恥ずかしそうに目を伏せる。

会った時にはそのプラチナの髪に引いた俺だが、今はどこか現実離れしたひかるに良く似合っているって思うんだから、現金なものだ。

並んでマンションの外に出る間、特に何の話しもしないんだけど、気まずくはない。

マンションの目の前には、都内有数の公園が広がっている。

夜になってもポツポツと街灯が灯っていて、ランニングを楽しむ人達の姿が木陰から垣間見える。

｢ひかるのマンション、マジで公園が目の前だな｣

自分の気持ちをクールダウンしたくて、そんなふうに話しかけると、
｢うん。おれ、宮城の田舎出身だから、緑が多いとこが安心するんだ｣
と微笑む。

そうか、宮城の生まれか。
ひかるの秘密が一つ明らかになって、ちょっと嬉しい。

｢宮城かぁ、良いとこじゃん。……っても、俺、宮城スタジアムしか行ったことねーわ｣

試合を見て帰るだけで、観光なんかしたことないもんな。
苦笑混じりの俺に、ひかるはニッコリ笑う。

｢じゃあ、今度行く時は、おれが案内するよ｣

……マジか。

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