アツアツを召し上がれ【ybhk】

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「座ってみるとマジで芝生って気持ちいいなぁ。ヒカリンの言う通りだな」

やぶさんはそう言って目を細めるけれど、芝生の気持ち良さって、やぶさんが教えてくれたんだよ。

「えー？芝が気持ちいーって教えてくれたの、やぶさんじゃん」

なんだかおかしくなって笑っちゃった。
やぶさんは「あれ？そうだっけ？」なんてトボケるから、よけいに笑えちゃう。


やぶさんも一緒に笑ってたのに、不意に真顔になって「やぶって呼んでよ」ってムチャを言う。
笑うとお地蔵さまみたいに優しい顔なのに、真顔になるとキリッとした眉が男らしくてクールなんだよ。


──呼び捨てなんか、そんなのできっこない。


「やぶさんみたいな人を呼び捨てなんて……無理」

はっきり断ったつもりなのに、やぶさんはまたお地蔵さまみたいに笑う。

「俺〈みたいな人〉ってなんだよー！失礼だなー！」

ふざけたやぶさんは腕を伸ばしておれに抱きついた。
力強い腕、見た目よりがっちりした胸板。

──これって、夢？！夢オチ？！

思わず「や、やぶ！」って叫んじゃった。

「そうそう、その調子。〈やぶ〉でいいからな」

しんぞー、とまるかとおもった……。

口笛でも吹きそうな軽やかな調子で答えたやぶさんの腕がスルスルとほどけていく。

やぶさんにとっては、ほんのおふざけだろうけど、刺激が強すぎるよ！

ドキドキする心臓を抑えながら、こんな時フツーはどうするんだろうって頭を巡らせて、
「じゃあ、やぶはおれをひかるって呼んでよ」と言ってみた。

やぶさんは柔らかそうな髪をかきあげる。

「ひかるって、本名なんだよな？」
「うん。東京でおれのことひかるって呼ぶのはいのちゃんと大ちゃんだけなの。だから、やぶさん…やぶは三人目ね」


いのちゃんと大ちゃんは東京ではじめてできた友達、それで──やぶさんははじめての……


「なんだよー、俺が初めてじゃねーのかよー」

急に砕けた口調になって、長い足を芝生の上に投げ出す。


はじめてだよ、やぶ。
おれが誰かを呼び捨てにするのって、生まれてはじめてだよ。


そんなことを知らないやぶさんはインタビューを受ける〈王子様〉……山田くんとちねんくんを見ながら、
「あとでちゃんと山田とゆーりの二人を紹介するな」って微笑む。


やぶさんが二人を大事にしてるってことは、見てたらわかる。
大事な二人に紹介して貰えるなんて、トクベツみたいで嬉しい。

舞い上がった気持ちのまま、おれは何度も頷いた。

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