獣と薔薇【狼yb×人間hk】 ページ29
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飢えていた。
幾日もまともに食べていなかった。
その上、猟師に撃たれ、弾が前足を掠めたせいで走るどころか歩くことさえ覚束ない。
目の前を太った兎が横切っても追い付けなかった。
仕方なく、夜の闇に紛れて山を降り、人里の家畜を狙うことに決めた。
狼は狐や猿じゃない。
人里に降りることは下品な振る舞いだと嫌われるが、背に腹は変えられない。
夜半、足を庇いながら山を降り、里まであと少しというところで息が切れ、俺は木の下に横たわった。
見上げる夜空はきらめく星に埋め尽くされていた。
綺麗だなぁ……。
前足の感覚はもうなかった。
このまま死ぬのかもしれない。
死ぬのは怖くないが、何か淋しい。
生まれ育った群れを飛び出し、俺は何かを探していた。
だが、何を探しているのかも分からなかった。
分からないことがひどく切なかった。
夜空を流れ星が横切った。
──俺はそのまま意識を失っていた。
｢気がついた？狼さん？｣
優しい声がした。
目の前に若い人間がいて、俺の鼻先を撫でていた。
俺は柔らかな干し草の上に横たわっていた。
どうやら人の住む家の中らしい。
暖かい。
「お腹空いただろ？」
人は俺を少しも恐れていなかった。
背中を向けて何かしている。
｢これ飲んでみてよ｣
お椀になみなみと白い液体が入っていた。
ふんわりと甘い匂いに引き寄せられた。
何も考えずに飛びついて飲み干す俺に、人間は楽しげに笑っている。
｢これね、牛のお乳だよ｣
驚いて顔を上げると、人間はまた声を上げて笑い、俺の鼻先を撫でる。
牛の乳が牙の間から垂れるのを、人間は指ですくいあげた。
｢足は痛くない？｣
言われて気がついた。
痛くない。
見ると白い布が丁寧に巻かれていて、クンクン匂うと薬草の匂いがした。
｢ここは薬草畑ばかりだけど、牛乳はいくらでもあるから、いつでも飲みに来いよ｣
人間からは薬草と何か花の匂いがした。
よろめきながら立ち上がった俺に、人間は｢おれはヒカルって言うんだ。狼さん、またおいで｣と背中をポンと叩いた。
礼のつもりで尻尾を振ると、ヒカルはまた優しく鼻先を撫でる。
探していた何かは、この人間だったのかもしれない。
俺は山へ帰りながら幾度も振り返り、手を振るヒカルの姿を胸に焼き付けた。
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しろくま(プロフ) - Ｑさん» Q様、冬空ははじめはもっとダークな感じだったんだけど、締めのお話にこれはない！と気づいてあんな雰囲気になった次第です。でもなんかまだサウナについては消化できてない！！きっとまた書きますわ… (2021年2月19日 8時) (
レス) id: 690493538b (このIDを非表示/違反報告)
しろくま(プロフ) - SK329さん» SK329様、ありがとうございます。公式が妄想みたいな今日この頃、ネタに困らない反面公式にノックアウトされつつ書いたお話ばかりで…(笑)寝室は完全に｢お、おまたせ｣リプに触発されたお話です。リボンをかけて捧げます。 (2021年2月19日 8時) (レス) id: 690493538b (このIDを非表示/違反報告)
しろくま(プロフ) - ちちちさん» ちちち様、最後までお付き合いいただいてありがとうございました。どれか一つでもお気に召すものがあれば嬉しい限りです。ソロキャンネタのお話はちちち様に捧げます〜。公式のドラム缶風呂にノックアウトされましたが…(笑)あの頃は想像できなかった…。 (2021年2月19日 8時) (レス) id: 690493538b (このIDを非表示/違反報告)
Ｑ(プロフ) - しろくまさん» 冬空、途中まで笑ってたけどラストの一行でシーンってなったわ、まさしく冬空！ちねたん視点良かったです。そして山海読んでまた泣いてた。これは本当に泣けるわ~ベルトが落ちる音も復習したし…ショタやツバメやジョセフや…色々思い出しつつ最初から読み返してます (2021年2月18日 23時) (レス) id: a1a90f72f9 (このIDを非表示/違反報告)
SK329(プロフ) - 完結おめでとうございます！心からどれも大好きです！けど、どれかひとつと言われたらキッチン寝室です＞＜ リアルな生活感大好物ですっ。 (2021年2月18日 23時) (レス) id: 84f428f697 (このIDを非表示/違反報告)
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