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地鳴りのような象たちの凄まじい鳴き声が夜明け前の静けさを破った。
ハッとしてヤブと顔を見合わせる。
約束通り、象遣いのダイちゃんがわざと象たちを騒がせているんだ。
続いてライオンや虎たちの咆哮が上がる。
猛獣遣いのユートが気を利かせたに違いない。
宿舎代わりの箱馬車やテントから飛び出したサーカスの者は、皆慌てふためきながら動物たちの囲いへ飛んでいく。
……誰もヤブを気にかけない。
おれはヤブの檻の前に敷き詰められた白い砂利を蹴散らし、鉄格子の扉に飛び付くと腹の底から叫んだ。
｢ヤブ！｣
檻の錠前に鋭いナイフを差し込み、体重をかけると、呆気ないほど簡単に鍵は外れた。
同時にヤブの腕が力強くオレを抱き締める。
もうおれらを隔てる物はなかった。
懐かしい、ヤブの匂い。ぬくもり。
｢ヒカ、口枷取るのが先だよ！｣
背後を振り向くと、空中ブランコ乗りのリョースケとユーリの兄弟が肩をすくめている。
我に返ってヤブの口枷を取ると、｢あー、楽になった｣とふにゃりと目を細め、当然のようにオレの手を握る。
「もう、なにやってんの？！イチャイチャしてる暇なんかないよ！？」
「ケイトが馬を裏口に回してる。ユーヤが港で待ってるってさ、さぁ早く！｣
二人に急かされて、おれたちはマントを纏い顔を隠した。
「これ──イノオちゃんから。ヤブちゃんの稼ぎだから遠慮はいらないって」
リョースケが革袋をヤブの手に押し付ける。
きっと金目の物がつまっているんだろう。
みんなの気遣いが嬉しかった。
「ありがとう。遠慮なく頂いていくよ。さぁ、ヒカル、急ごう」
頷いて、おれはヤブと強く手を握って走り出す。
「──お幸せに!!」
背後からかかる声にも、おれたちは振り向くことはなかった。
一心に裏口に向かって走り、ケイトから二頭の馬を受け取った。
ケイトは港までの道のりを教えてくれ、道中の安全を祈ってくれた。
「港にはユーヤが船を用意してる。そこまで逃げたら大丈夫だからね──ボンボヤージュ！」
おれたちは片手をあげて応え、馬に鞭を入れた。
朝靄を裂き、馬は街道を走っていく。
もうサーカスの騒ぎは潮騒のように遠い。
港まであと少しだ。
長かったサーカスの巡業の旅は、この短い旅で終わる。
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しろくま(プロフ) - Ｑさん» Q様、冬空ははじめはもっとダークな感じだったんだけど、締めのお話にこれはない！と気づいてあんな雰囲気になった次第です。でもなんかまだサウナについては消化できてない！！きっとまた書きますわ… (2021年2月19日 8時) (
レス) id: 690493538b (このIDを非表示/違反報告)
しろくま(プロフ) - SK329さん» SK329様、ありがとうございます。公式が妄想みたいな今日この頃、ネタに困らない反面公式にノックアウトされつつ書いたお話ばかりで…(笑)寝室は完全に｢お、おまたせ｣リプに触発されたお話です。リボンをかけて捧げます。 (2021年2月19日 8時) (レス) id: 690493538b (このIDを非表示/違反報告)
しろくま(プロフ) - ちちちさん» ちちち様、最後までお付き合いいただいてありがとうございました。どれか一つでもお気に召すものがあれば嬉しい限りです。ソロキャンネタのお話はちちち様に捧げます〜。公式のドラム缶風呂にノックアウトされましたが…(笑)あの頃は想像できなかった…。 (2021年2月19日 8時) (レス) id: 690493538b (このIDを非表示/違反報告)
Ｑ(プロフ) - しろくまさん» 冬空、途中まで笑ってたけどラストの一行でシーンってなったわ、まさしく冬空！ちねたん視点良かったです。そして山海読んでまた泣いてた。これは本当に泣けるわ~ベルトが落ちる音も復習したし…ショタやツバメやジョセフや…色々思い出しつつ最初から読み返してます (2021年2月18日 23時) (レス) id: a1a90f72f9 (このIDを非表示/違反報告)
SK329(プロフ) - 完結おめでとうございます！心からどれも大好きです！けど、どれかひとつと言われたらキッチン寝室です＞＜ リアルな生活感大好物ですっ。 (2021年2月18日 23時) (レス) id: 84f428f697 (このIDを非表示/違反報告)
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