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歌い終わり、いつものように一礼すると、万雷の拍手とともに客席から薔薇やダイヤモンドの指輪や金貨が数限りなく投げ込まれ、床はキラキラ光るお宝に埋まった。
今夜のショーもうまくいった。
客席に手を振る俺の脇をヒカルがすり抜け、うずくまって素早くお宝を拾い集める。
汚れたシャツの背中は薄く、床に散らばった宝石を拾い上げる指先はささくれ、あかぎれが痛々しい。
俺は金の刺繍が施された濃紺のベルベットの上着を着ている。
さる伯爵夫人からの贈り物だ。
ダイヤモンドのカフスボタンは富豪の御婦人から、真珠のネクタイピンは某国の王室に連なるレディから贈られた極上品だ。
だけど、どんな贅沢な品物より、俺はヒカルの丸めた背中に触れたかった。
──俺は12、ヒカルは11歳だった。
貧しい村では口減らしに子どもが売り物になるのは当たり前だ。
俺は海風が吹き付ける寂れた港町、ヒカルは雪深い寒村から人買いに売られた。
箱馬車の隅で震えるヒカルの手を握って｢ヒカル、なんとかなるよ｣と、何の根拠もない慰めを口にした。
その根拠のない言葉に、ヒカルは汚れた顔を上げて小さく頷き、ギュッと手を握り返した。
それから……俺たちは一緒だ。
そのうち俺は｢魔法の歌声｣と言われ、サーカスのショーに出るようになり、ヒカルと引き離された。
何度も逃げ出そうとして、支配人に鞭打たれ、ついには口枷をされて檻に閉じ込められるようになってからも、ヒカルはなんとかして俺を助け出そうとしてくれていた。
金目の物を拾い集めたヒカルは目立たないよう、背中を丸めたままうつ向いて舞台を降りようとする。
その去り際の一瞬。
赤い薔薇の花を俺の上着のチーフポケットにサッと差し、ヒカルはニカッと笑った。
そうか、今夜なんだ。
俺は再び一礼して舞台を降りた。
もう、俺はヒカルのためにしか歌わないだろう。
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しろくま(プロフ) - Ｑさん» Q様、冬空ははじめはもっとダークな感じだったんだけど、締めのお話にこれはない！と気づいてあんな雰囲気になった次第です。でもなんかまだサウナについては消化できてない！！きっとまた書きますわ… (2021年2月19日 8時) (
レス) id: 690493538b (このIDを非表示/違反報告)
しろくま(プロフ) - SK329さん» SK329様、ありがとうございます。公式が妄想みたいな今日この頃、ネタに困らない反面公式にノックアウトされつつ書いたお話ばかりで…(笑)寝室は完全に｢お、おまたせ｣リプに触発されたお話です。リボンをかけて捧げます。 (2021年2月19日 8時) (レス) id: 690493538b (このIDを非表示/違反報告)
しろくま(プロフ) - ちちちさん» ちちち様、最後までお付き合いいただいてありがとうございました。どれか一つでもお気に召すものがあれば嬉しい限りです。ソロキャンネタのお話はちちち様に捧げます〜。公式のドラム缶風呂にノックアウトされましたが…(笑)あの頃は想像できなかった…。 (2021年2月19日 8時) (レス) id: 690493538b (このIDを非表示/違反報告)
Ｑ(プロフ) - しろくまさん» 冬空、途中まで笑ってたけどラストの一行でシーンってなったわ、まさしく冬空！ちねたん視点良かったです。そして山海読んでまた泣いてた。これは本当に泣けるわ~ベルトが落ちる音も復習したし…ショタやツバメやジョセフや…色々思い出しつつ最初から読み返してます (2021年2月18日 23時) (レス) id: a1a90f72f9 (このIDを非表示/違反報告)
SK329(プロフ) - 完結おめでとうございます！心からどれも大好きです！けど、どれかひとつと言われたらキッチン寝室です＞＜ リアルな生活感大好物ですっ。 (2021年2月18日 23時) (レス) id: 84f428f697 (このIDを非表示/違反報告)
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