箱庭の景色【ybhk短編】

弁当箱には手を出すな【リーマン設定】 ページ22

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｢今年もあと4か月かぁ……。年々一年が早くなる気がするよなぁ｣

給湯室の隅でカップラーメンにお湯を注ぎながらボヤいたオレに、ひかる君は｢それだけダイちゃん、仕事が充実してるってことじゃない？｣と笑う。

｢仕事はね、お陰様で充実してますよ。でもプライベートはねぇ……あ〜あ｣

カップラーメンでランチを済ますオレを横目に、ひかる君はいそいそとスヌーピー柄のお弁当箱を取り出した。

｢あ、ピーマンの塩昆布和えが入ってる｣

蓋を開けたひかる君は弾んだ声でそう言った。

あぁ、羨ましい。
料理上手な彼女がいるんだろうな。

｢ひかる君は仕事もプライベートも充実してるじゃん｣
｢うーん…プライベートは楽しいけど、仕事は課長に迷惑かけてばかりだから｣

ひかる君がチラリと視線を向けた先にはやぶ課長がいる。

課長は弁当を食べながらスマホを手にしている。
きっとニュースのチェックでもしてるんだろう。
仕事が出来る人は何時だって隙がない。

あのお弁当だって彼女さんの作ったものに決まっている。
秘書課のマドンナも、総務のアイドルも、受付嬢の美女もやぶ課長にお熱だって言うし。

チン、と安っぽい音がしてお弁当は温まったようだ。

｢お先に｣
温まったお弁当箱を大事そうに抱えたひかる君は、小さく会釈して自分の席に戻って行った。

オレもラーメンを慎重に持ち上げ、くるりと向きを変えた所で思わずギョッとした。

やぶ課長が空になった弁当箱を手にして、出入口に立ちはだかっていたのだ。

｢ダイちゃん、お疲れ｣
いつもの穏やかな口調だったけど、目が笑っていない。

スウッと背中に寒気が走る。

｢ひかると何話してたんだ？盛り上がってたよなぁ？ダイちゃん？｣
｢いや、その、今年もあと4か月だねって…それだけです、はい｣
｢ふぅん……｣

やぶ課長は細めた目でオレを上から下まで眺め、｢まあ、いいか｣と独り言のように言って、それから｢これ、洗うんだ｣と空っぽのスヌーピー柄の弁当箱を見せた。

｢……！｣

それは、さっきひかる君が持ってたのと同じやつ……。

どういうこと？お揃いのお弁当箱？
え？
やぶ課長とひかる君って？
ええ？！

｢お、お先に！｣

慌てて給湯室を飛び出したオレの背後から低い笑い声が聞こえた。

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