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御簾の向こうには薮様が背筋を伸ばして座っていて、帝のお出ましを待っている。
しばらくすると、サラサラと衣擦れの音がして薮様が深く頭を下げるから、おれも急いで床に額をつけた。
御簾の向こうでお姿は見えないけれど、すぐそこに帝がいらっしゃる。
そう思うと、さっきまであくびをかみ殺していたのが嘘みたいに緊張で口が乾く。
「あれー、薮くん、珍しいね。ちゃんと束帯着てんじゃん」
……は?
ちょっと甲高い、おれとさして変わらないくらいの子供っぽい声。
「今日は薮くんの弟子が来てるんでしょー。ねーねー見せて見せて」
「見せてって……見せ物じゃねーぞ」
「ケチケチしないでさぁ、弟子を連れて来るなんて初めてじゃん。見たいよ」
「しゃあねーなぁ。
おい、涼介、こっちへ来い」
こっち、って…どこなんだろう、まさか御簾の向こう側じゃないよな。
「涼介、早くしろ〜」
無作法に御簾を掲げて、薮様が手招きするから、俺は弾かれたように御簾の内側へと進んだ。
正面にはおれと同い年くらいの少年がニコニコしていた。
見たこともないほど美しい水色の束帯を着て、幾重にも積み重なった畳の上に座っていたが、おれを見るなりその台座からぴょーんと飛び降りて勢いよく駆け寄ってくる。
「うっわっ、何!ちょー可愛い〜。きみ、涼介っていうんだね。
俺、ゆーと。よろしく」
呆気に取られたおれの両手を握り、ぶんぶんと握手する。
おれは、非礼を忘れてまじまじと少年を見詰めた。
高い鼻梁、血色のいい頬、唇の端っこに小さな傷痕があった。
なにか、芳しい香りが鼻をくすぐる。
「……こいつ、帝の癖に変わり者で、俺とふたりの時はいつもこんな感じなんだよ……」
そうぼやいた薮様はおれの背中を叩き、「お前ら、同い年くらいだろ?ま、仲良くしろよな」と笑った。
一頻り、嫌がるおれをくすぐったり、突っついたりして遊んでいた帝……ゆーとは、おれがすっかり諦めて抵抗しなくなった頃、ようやく「で、薮くん、例のヤツってどうなってんの?早く教えてよ」と口火を切った。
「それが今日の本題なんだけどな、お前が話しをさせなかったんだろ」
薮様は苦笑して、それから威儀を正した。
「涼介の御父上は陰陽師で、都の近くで魔と戦って命を落としたんだ。
涼介自身も魔を目にしている……さ、涼介、ご説明申し上げなさい」
静かに促され、おれは座りなおした。
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しろくま(プロフ) - Qさん» いや〜改めてあけましておめでとうございます。まだ松の内だからいいよね?今回、ハピエンにはならなくて残念です(/。\)次こそは…!!懲りずに書くのでゆるゆる見て頂けると幸いです。 (2021年1月5日 23時) (レス) id: 690493538b (このIDを非表示/違反報告)
Q(プロフ) - 完結(ちゃんと年内に仕上げて!)おめでとうございます。そうか、そういうことだったのね、お二人の存在が透明感に包まれてたのは…黄泉のふたり、美しい…究極のハッピーエンドよ!しろくまさまワールド、堪能させていただきました!素晴らしき〜 (2021年1月2日 1時) (レス) id: 693b52752a (このIDを非表示/違反報告)
しろくま(プロフ) - みるみるみるきーさん» みる様、本当になんか…色々すみません〜。最後までお付き合い頂いてありがとうございました。次はちゃんと計画立てて書きます← 2021年もよろしくお願いいたします。良いお年を〜\(^o^)/ (2020年12月31日 11時) (レス) id: 690493538b (このIDを非表示/違反報告)
みるみるみるきー(プロフ) - 完結おめでとうございます。まさか、まさか薮様の方が先に??まさかまさかです!伏線がたくさんあったんですねぇ。でも、あの世でもふたりは幸せだろうから、涼介の父上も戻ってきたんだから、ハピエンなんですよ!! (2020年12月31日 9時) (レス) id: a47283bf22 (このIDを非表示/違反報告)
しろくま(プロフ) - みるみるみるきーさん» ハピエン目指して行きます!涼しくなって来たので、これから更新がんばります〜。どうかお見捨てなきようお願い致しますm(__)m (2020年10月15日 21時) (レス) id: 690493538b (このIDを非表示/違反報告)
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