境 界 線 【ybhk】

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無事に10年の区切りを迎えた今年は大掛かりなツアーが予定され、グループ仕事がいつも以上に多い。
個人の仕事も増えて、俺も久々にドラマ撮影が始まっていた。
慣れないドラマの現場に比べると、グループでの雑誌撮影日は息抜きみたいなものだ。
穏やかな安息日。

「あのシュチュ…俺できるかな」
雄也は心配そうに伊野尾と光を見つめる。
「俺と薮くんでユニコーンとか、不安しかないわー」
「それはこっちのセリフだ」
軽く言い合いをしているうちにまたポーズが変わり、今度は伊野尾と光は綿菓子みたいなラグに寝転がって、フラッシュの光るカメラに微笑んでいた。
「……伊野尾くん、可愛い」
うっとりした声音で雄也がつぶやく。
「おい、ヨダレ出てるぞ」
からかうと、「えっ!」と慌てるから、すぐに「冗談冗談」と訂正してやった。

雄也と伊野尾が付き合い始めてもう丸2年になる。

一番相性の悪そうな二人が手を�壓いで「付き合うことになった」と俺に報告に来たときは、タチの悪いドッキリじゃないかと部屋を見まわしたものだ。
ドッキリでも冗談でもなく、本気だと分かった時には口が開いて塞がらなかった。
聞けば、二人なりに紆余曲折があって収まるところに収まり、結果として、付き合うという結論を出したらしい。
俺が黙認したことで今やグループ内では公認の仲だ。


──俺と光は何事もなくこの数年を過ごしていた。


ずっと昔…デビューして日が浅いころ、部屋に光を連れ込んだ夜もあったが、「おれはやぶがすき」という光の言葉に思いとどまった。
あの夜がただの遊びなら、たぶん俺は心ゆくまで何度でもアイツを味わったことだろう。
しかし、俺のこと好きだと言って体を任せようとする光の気持ちに応えるためには、俺は“普通”の境界を踏み越える必要があった。
それが、俺にはできなかった──光を好きだと言い切る自信がなかったから。

今から思い返すと、俺は光のことが好きだったのだろう。たぶん。

それ以前にも、一度だけ、高校生の時に光の家の浴室でヌキ合ったことがあった。
高校生の俺は、あれは光が誘ってきた即興劇(エチュード)だと無理やり自分を納得させ、光の気持ちから目をそらし続けるという卑怯な態度を取り続けた。
それなりに経験を重ねた今振り返ると、やっぱりあの時の俺はセクシャルな欲望だけでなく、光に愛情を持っていたように思う。

しかし、その異性愛めいた愛情以上に、俺は“普通”の境界線を越えることが恐ろしかった。

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