境 界 線 【ybhk】

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「お前ら静かにしろよっ!」
隣りの控室から苦情が来るより先に光が怒鳴り、騒いでいた年下のメンバーたちは鼻白んだように動きを止めた。
白けた雰囲気の中、「まーまー」と俺はフォローに回って、倒れたパイプ椅子を直す。
誰を使うかというキャストのセレクトは現場のスタッフが提案して決まるのだから、いくら大手事務所に所属していても、『めんどくさい、使えない』ようなタレントは嫌われる。

「あのなぁ、隣の控室からうるさいってこないだも苦情がきたばっかだろ？
あんまりうるさくしてると、そのうち楽屋貰えなくなるぞ。廊下で着替えなきゃならなくなったらどうすんだ」
スタッフからの評判が落ちたら楽屋どころか、仕事が貰えなくなるんだからな、とは言わなかった。
冗談めかして言い聞かせ、それから「俺らちょっと打ち合わせに行ってくるから。静かにしてろよ、な？」と主犯格の二人の頭をコツンと突いた。


「……ごめん」
後ろ手にドアを閉めて、光はバツが悪そうに俯く。
「いや、光が怒鳴ってくれて助かった。俺、今日ちーと喉の調子悪いんだわ」
「マジで？」
「マジ。だから大声出さずに済んで良かったよ」
「喉、大丈夫か。おれ、全然気づかなかった」
真剣に心配してくれる光の気持ちが嬉しくて、「ん、大丈夫だから」と笑ってみせると、やっと光の瞳から緊張が緩んでいく。
だけど、呼び出されたスタジオの隅に、苛立つディレクターの姿を見つけた光はまた緊張してグッと唇を引き結んだ。

二人並んで、こんこんとお説教を食らった。
リハでの態度に真剣さが足りない。
ダンスシーンでも間違ってばかり。
すぐ集中力が切れてあくびしてるやつがいる。
言われることは至極もっともで反論のしようがない。
「お遊戯会じゃないんだから」
最大限の嫌味にも俺らは頭を下げて、「申し訳ありません」と繰り返した。

光も俺も、ミスなく全力でやってるのに、なんであいつらのことで怒られなきゃならない？

そんな不貞腐れた思いが頭をよぎるが、その一方で俺と光があいつらを守って育ててやらなきゃ、という自負もあった。
「俺らからあいつらによく注意しておきます。ホントにすみませんでした」
最後に深く頭を下げると、ディレクターは「よろしく頼むよ」と苦い声で言い、それから切り替えたように「光くん、最近大人っぽくなったよね、色気出てきた」と褒めてくれた。

「……ありがとうございます」
光はごにょごにょと礼を言って、「戻ろう」と俺の服の裾を引っ張った。

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