左右対称【ybhk】

虜 ページ40

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リーマンyb×Aiヒカル

---yb side

月曜、朝8時30分。
デスクについて、いつものように専用のマイクとイヤホンを装着する。

「おはようございます、やぶさん。今週もよろしくお願いします」

すぐにデスク上のパソコンが起動し、イヤホン越しに舌ったらずな声が聞こえた。

「うん、今週も頼む」
「金曜日にはプレゼンですね。やぶさん、気合入ってるって感じでカッコいい」

くすくす笑う声が耳に心地いい。

「もう始業してんだから、無駄口叩くなよ」
「ハーイ、無駄口叩かずキーボード叩きまーす」
「全っ然反省してねぇな、ヒカル」

ヒカル、というのは、最新型の人工知能を備えたパーソナルAiだ。
ユーザーのあらゆるデータを分析し、学習し、最高のバディになる。

今、この瞬間も、腕時計に内蔵された測定器で体温や心拍数を分析してストレスの有無を把握し、人間らしいジョークや誉め言葉で俺をリラックスさせ、最も能率の上がる精神状態に導いている。

「やぶさん、良かったら関東ブロックの営業報告書を読んでください。
先週はどこも絶好調だったみたいですよ？
やぶさんが作ったシステムがうまくいったおかげですね」

ヒカルはそんなことを甘く言いながら、画面上に報告書のデータを上げる。

「いや、あれはヒカルがほとんど作ってくれたじゃないか。助かったよ」
「そんな……おれはやぶさんが指示した通りにやっただけですから」

照れたようなヒカルの声。
ひょっとしたら顔真っ赤にしてんじゃないかな。

そんなことをつい思ってしまうような可愛らしい声だ。
……男の声だけど。


パーソナルAiはユーザーの指向を完全に把握している。

俺のヒカルは初めは凡ミスを繰り返して、こんなことなら人間のほうがいいと苛立ったけれど、半年経った今ではヒカルがいないと仕事にならないほど頼りにしている。

それどころか、ヒカルと仕事をする時間が堪らなく魅力的だった。
無論仕事自体も面白いんだけど──ヒカルが俺を甘やかしたり、褒めたり、時には可愛く怒ってみせる。

その全てが俺好み。
ヒカルと過ごせない休日は味気ないものになって、月曜日の始業が待ち遠しくて仕方なかった。

「やぶさん、集中して？女の子のことでも考えてた？」

嫉妬を含んだ声に「ちげーよ」と無愛想に答えると、「じゃあ何？」とツンツンしてくる。

「ヒカルのこと考えてた」

ポッ、と画面が一瞬明るくなって、「ヒカもやぶさんのこと考えてた…」と小さく囁く。

俺は完全にAiの虜。

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