左右対称【ybhk】

君が欲しい ページ8

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---hk side


──ひかるが欲しい。


耳元で囁いたやぶの低い声は、おれの心を強く掴んでしまった。

互いに脱がせ合った。
ボタンを外す余裕もなくて、おれは引きちぎるようにやぶの青いシャツに手をかけた。
やぶもおれのジーンズを下着ごと乱暴に奪いさった。

シャワーを浴びることさえなく求めあい、ベッドに倒れこむ。

綺麗ごとじゃない。
汗ばむ肌を合わせて、互いを性急に求める。
やぶの唇が、指が、おれを熱くし、痺れるような興奮に震えた。
そのひとつひとつを、全てを覚えていたくて、そして全てを忘れ去りたかった。

繰り返す口づけ。
漏れる吐息。
張りつめる欲。
痛み。
痛みと、痛みの向こうの何か。




互いに達したあと、おれは声もなくただ荒く息をしていた。
セミダブルのベッドも、男二人で横たわると狭い。

「ひかる」
呼ばれても、返事できなかった。
返事をしたら、その次の言葉は終わりを告げるものに違いなかったから。

枕に顔を押し付けて、みっともない顔を隠した。
「ひかる」
やぶの指が優しく髪を梳く。
その優しさが怖い。
やぶはいつも優しい。

誰にでも、変わらない優しさ。

それは特別な「誰か」を作らない優しさだ。

「顔、見せろよ」

簡単に枕を取り上げられ、強引に顎を捉えられた。
ベッドサイドのランプに照らされたやぶの顔はやはり優しく微笑んでいる。

「何か言ってよ、ひかる」
「……やだ」
「やだってなんだよ」

クッと笑われ、バカにされた、と泣きそうになる。
いいようにされて、やぶにあんなことされて。
あんなかっこう見られた。
やだ。やだ。

あ、泣きそう。泣きたくない。なみだ、やだ。

「かわいい。ひかる、好き。愛してる」

ぎゅっと抱きしめられた。
嘘。
冗談だろ、やぶ。
いつもの悪ふざけだ。

「……ふざけてんだろ」

振り絞ったおれの言葉に、やぶはまた優しく笑う。

「ふざけてねーよ。もう、ひかるは俺のもんだから。
誰にも渡さねぇからな」

優しい微笑み。
それ、ほんとにおれだけに向けた微笑み？やぶ。

「……やっぱ信じらんねー」
「なんでだよ！｣

やぶはまた笑って、それからおれを抱く腕に力を込めた
｢ひかるしか、欲しくない。ひかるは特別だから｣
｢おれ、特別なの？｣
｢そうだよ……ひかるだけが、欲しい｣

掠れた声で、そう、求められた。

夏の終わりは近い。
だけど、おれらは始まったばかりだ。

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