左右対称【ybhk】

新しい年に ページ38

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リーマンyb×美容師hk

---hk side


美容師の年末年始はアイドル並に忙しい。
大晦日の今日も朝からてんてこ舞いだった。

21時にお店を閉めて、急いでうちに帰ると｢お帰り〜｣と呑気な声が出迎えてくれた。

炬燵でみかんを食べながら紅白歌合戦を見ている背中。

部屋着のパーカー、毛玉だらけでいい加減買い替えて欲しいのに、やぶは｢男は中身で勝負だろ｣とうそぶく。

アパレル営業の癖に、自分のファッションに何の興味もない。

美容師のおれから見れば、やぶは背は高いし、スタイルいいし、ちょっと髪を切って服を変えたら、たちまちモデルに転職できそうなのに、これじゃ宝の持ち腐れだ。

でも、と、おれは蕎麦を茹でながら溜め息をつく。

おれだって、連勤の疲れで目の下にはクマができてるし、髪だってもう3週間くらい切ってない。
疲れを若さでカバーできる年齢ではないから、やぶに嫌われないよう自分磨きに精を出しているけれど、ここのところ余りの忙しさについ手を抜いてしまってる。

こんなおれじゃ、やぶに嫌われる…。

そんなことを思いながら｢やぶ、少し早いけど年越し蕎麦出来たよ｣熱々のお蕎麦を並べると、｢やっぱ年越しは蕎麦だよな｣と嬉しそうにフニャリと笑う。

やぶの関心はビジネスとサッカーと食べることしかない。

おれ…？

おれは、やぶにとってなんだろう。
都合良く家事をしてくれて、後腐れなくキモチ良くなれる、チョロイ相手…？

紅白歌合戦が終わると、やぶはチャンネルを変えた。

キラキラの衣装を着たアイドルたちが、満面の笑顔で歌い踊っている。

どの子もキレイで輝いている。
──おれなんかと違って。

暫く黙って蕎麦をすすっていたやぶが不意に箸を置く。
｢…俺さ、こういうアイドル見ると、ひかるみたいだなって思うんだ｣
｢へ…？｣

意味が分からなくてキョトンとしたおれの頬っぺたを、人差し指でつつく。
｢こんな綺麗なヤツがなんで俺なんかの隣にいるんだろう、テレビの中から出て来たアイドルみたいだなって…｣

頬に触れた指先が震えている。
おれの心も震えている。

｢明けましておめでとう、ひかる｣
｢おめでとう、やぶ｣

新年最初の言葉をおれたちはありきたりの挨拶で交わした。
震える指先、それで十分だった。

新しい年は何かが変わかもしれない。





**素敵な一年を**

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