晴れるまで待って ページ13
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雨の音、風の音。
激しい風雨は、まるでおれの心の中と同じだった。
眠れなくて、やぶを起こさないようにそっとベッドを抜け出した。
カーテンの隙間から外の様子を伺うと、雨粒が機関銃のように窓ガラスを打ち付けている。
こんなにも荒れた夜でも、やぶの寝息は規則正しい。
不意に遊びに来たやぶは台風を言い訳にして帰らず、寂しい、と言っておれを抱いた。
「痛くない?」
行為のあいだ、あいつは幾度もおれを気遣うようなことを口にしていたけれど、本当におれが欲しい言葉をくれることはなかった。
いつも、そう。
おれが本当に欲しいものは手に入らない。
目の前にあるようだけど、捕まえようと手を伸ばした瞬間にそれは消えてしまうんだ。
だからもう諦めて、おれは手を伸ばすことをやめた。
きまぐれに与えられる肌のぬくもりだけで満足したらいい。
欲張ったらダメだよな。
愛してほしい、とか。
強い雨と風のむこうは見えない。
すぐそこにあるものさえ、見えることはない。
隣りに立つあいつの気持ちなんか、見えるわけないんだ。
カーテンを握りしめるおれの手を、ふわりと温かな何かが包んだ。
「ひかる」
いつの間にか背後に立ったやぶが、カーテンを掴むおれの手にそっとその手を重ねていた。
ガラス越しにやぶと目が合う。
「ひかる」
「…なんだよ」
やぶは照れくさそうに笑って、それから「雨、すげぇな」とおれの頭越しに外を眺める。
ガラスに映る二人の顔にも、雨や風が叩きつけられている。
それはおれたちがこれまで歩いてきた道のりに似ていた。
「ひかる。俺、ひかるが好きなんだよ」
驚いて振り返ると、やぶはやはり照れくさそうに笑っている。
「…ひかるは?」
答えを待つやぶはすっかり大人になった顔をして、おれの返事を待つ。
すぐにあいつの欲しい言葉は答えてやらない。
雨と風。
おれたちが乗り越えてきたものが治まったら──晴れたら、答えるよ、やぶ。
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しろくま(プロフ) - べすさん» べす様、ひょえ〜勿体ないお褒めの言葉にうち震えております(;´∀`)リアルのお二人がますます仲睦まじい様子で、妄想も負けずにラブラブさせたいと思っています。ベす様のお話もワクワクしながら読ませていただいていまーす。コメントありがとうございました (2020年4月14日 23時) (レス) id: 8dcb6e2f50 (このIDを非表示/違反報告)
べす(プロフ) - 完結おめでとうございます。しろくま様の味わいのあるお話は本当に“珠玉”という言葉がぴったりで心惹かれるものばかりでした。これからも何度となくお邪魔して読ませていただきます。また、先日のお優しい返信にとてもホッと致しました(涙) (2020年4月14日 17時) (レス) id: d251bf862e (このIDを非表示/違反報告)
しろくま(プロフ) - ちちちさん» ちちち様〜、こんな時こそ脳内妄想で「もっとアドレナリン」です!自己生産しかない(笑)健康一番、オタ活二番で長丁場を乗り切りましょう(^o^)v (2020年4月12日 21時) (レス) id: 690493538b (このIDを非表示/違反報告)
ちちち(プロフ) - しろくまさま、最後のお話にきゅーっときて、私も妄想頑張ろうと思いました!こんな時だからこそ妄想で自由に羽ばたいてもいいんですよね!いつも素敵なお話ありがとうございます。 (2020年4月10日 22時) (レス) id: b5788e234f (このIDを非表示/違反報告)
しろくま(プロフ) - みるみるみるきーさん» みる様〜ありがとうございます。獣人シリーズは長編ネタだったかもしれん…とちょっと書ききれなかったネタに後悔してます←無計画。でも幸せな家族の形で終わりにできて満足です。そしてワタクシ、「はっぴーばれんたいん!!」をメチャクチャ待ってます…(///∇///) (2020年4月8日 12時) (レス) id: 690493538b (このIDを非表示/違反報告)
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