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アイツは今日一日オフで、明日は10時入りで新曲のレコーディングだ。

つまり、あと10時間でやぶはレコーディングスタジオに行かなくてはならない。

ひかる自身は午後からレコーディングの予定になっている。

本来なら明日に備えて喉を休めておきたいが、あのやぶの母親の様子では迷っている暇はなかった。




クルマでやぶの実家に来たのは初めてだった。
付き合い始めたばかりの時はまだ免許がなく、電車で来ていたからだ。

やぶの実家は記憶の中の通りで、久しぶりに会うやぶの母親も変わりなかった。
ただ、見たことがないほど狼狽している。

「夜中に呼び立ててごめんなさいね、ひかるくん。
私どうしていいか……主人は単身赴任中だし、お兄ちゃんは海外出張に行ってるし、お姉ちゃんは赤ちゃん連れでしょう?」

やぶの母親はひかるにスリッパを出しながら階段を見上げる。

「コウタのこと……相談できるのはひかるくんしかいなくて」

ごめんなさいね、とやぶの母親は気弱に微笑む。


──まさか、おばさん、おれらが付き合っていたことを知っている?

いや、そんなことはない。
“おれら”は友達で、メンバーだ。
ずっとそうだった。


階段を上がった突き当たりがやぶの部屋だ──あの頃と同じならば。

「ちょっと行ってみます」

すぐに階段を上がり、ドアの前に立つ。
隙間から明かりが漏れていたが、物音はしない。

ノックにもやはり返事はない。

「やぶ?ひかるだけど、なんかあったのか?」

別れ話を昨日したばかりだと言うのに、実家にまで来たおれに腹を立てて出てきてくれたらいい。
“ひかる、なんだよ!”って。

「おばさんが心配してたぞ。オイ返事しろよ、やぶ」

今度は強くノックして、ドアノブに手をかけた。

……カギは掛かってない。

「やぶ──入るぞ」

声をかけてから階下のやぶの母親を見ると、心配そうに手を擦り合わせている。

“大丈夫ですよ”

そう口パクで伝えると、ひかるは数年ぶりにやぶの部屋に入った。



「──きったね」

漫画や雑誌、それに衣類が床に散乱して、比喩ではなく足の踏み場もない。


──そうだ。こんな散らかり具合のやぶの部屋で、初めてキスした。
中学生で初めてキスして……。

ぶっきらぼうに「好きだ」と言ってくれたアイツに、おれは舞い上がるほど嬉しかったんだ……。


懐かしい、昔の思い出。

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しろくま(プロフ) - ちちちさん» ちちちさま、ノロノロと書いていくので遅いですが必ずひかちゃんを幸せに致します。どうかお付き合いください (6月24日 0時) (レス) id: d7e22074ad (このIDを非表示/違反報告)
しろくま(プロフ) - kirinsanmoさん» kirinsanmoさま、コメントありがとうございます。ゆっくり更新ですが楽しんでいただけると嬉しいです (6月24日 0時) (レス) @page4 id: d7e22074ad (このIDを非表示/違反報告)
ちちち(プロフ) - ああありがとうございます!ありがとうございます…大切に読んでいきます! (6月18日 23時) (レス) @page3 id: 3093699708 (このIDを非表示/違反報告)
kirinsanmo(プロフ) - どんな展開になるのかワクワクします、、更新楽しみにしてます! (6月8日 18時) (レス) @page3 id: 4bf1b7a22e (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:しろくま | 作者ホームページ:___  
作成日時:2023年6月6日 17時

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