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待合室の椅子に座るやぶは、深くキャップを被って顔を隠していた。
周りの邪魔にならないよう、長い手足を持て余すように折りたたみ、小さく背中を丸めている。
高校時代、教室でもこんなふうに座っていたな、とふと思い出す。
「……忘れ物」
膝の上にスマホを置くと、やぶは黒目がちな目を見開いてひかるを見上げた。
「ひかる。ありがと」
やぶが嬉しげに答えたところで、診察室のドアが開いて番号が呼ばれる。
「あ、俺だ。ひかる、行くぞ」
「やだよ、おれ、関係ない」
「関係あるよ、俺の記憶が変になる直前に会ったのはお前だろ」
さっきまでふにゃふにゃしていた癖に、今のやぶは有無を言わさない強い視線でひかるを捉える。
こうなってしまうと、もう言うことを聞かないわけにいかない。
診察室には昨日とは違う年配の女医がいた。
ごく事務的に2人に椅子を勧め、救急で検査した一連の結果をざっくりと繰り返し、「検査結果からは頭部にダメージは見られません」と結論づける。
「お仕事やプライベートで最近強いストレスがありませんでしたか？」
「それが覚えてなくて。──ひかる、俺なんかあった？」
急に医者とやぶの2人から視線を向けられ、ひかるは「特に、なかった、と思います」と、どもりながら答える。
ウソじゃない、何にもなかった。
別れを告げたのはやぶの方で、そのやぶは顔色ひとつ変えずにおれの元を去っていった。
やぶの記憶がおかしくなるほどのストレスはなかったはずだ。
女医は「そうですか」と淡々と応じて、「それでも記憶に混乱が見られる時は、精神的なストレスも考えられますから、この後精神科を受診して下さい」と指示する。
救急で若い医者から精神科の話を聞いていたおかげで、ひかるは“精神科”の文言にも驚くことはなかった。
やぶも動揺は見せない。
2人で女医に礼を述べて退室し、受付で次の受診の手続きをする。
「おれ、もうちょい付き合おうか？」
書類に書き物をするやぶにそう言うと、「ひかるはもう帰れよ。午後からレコーディングがあるんだろ？」といつものように優しい。
「なんかあったら連絡するから」
迷ったが、ひかるは「じゃあな」と手を振った。
子どもじゃあるまいし、精神科まで付き添うのは逆に邪魔かもしれない。
「みんなに迷惑かけてゴメンって言っといて」
歩き出したひかるの背中に、やぶの声が向けられた。
片手を上げて応え、ひかるは振り向かなかった。
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しろくま(プロフ) - ちちちさん» ちちちさま、ノロノロと書いていくので遅いですが必ずひかちゃんを幸せに致します。どうかお付き合いください (6月24日 0時) (
レス) id: d7e22074ad (このIDを非表示/違反報告)
しろくま(プロフ) - kirinsanmoさん» kirinsanmoさま、コメントありがとうございます。ゆっくり更新ですが楽しんでいただけると嬉しいです (6月24日 0時) (レス) @page4 id: d7e22074ad (このIDを非表示/違反報告)
ちちち(プロフ) - ああありがとうございます!ありがとうございます…大切に読んでいきます! (6月18日 23時) (レス) @page3 id: 3093699708 (このIDを非表示/違反報告)
kirinsanmo(プロフ) - どんな展開になるのかワクワクします、、更新楽しみにしてます！ (6月8日 18時) (レス) @page3 id: 4bf1b7a22e (このIDを非表示/違反報告)
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