91 ページ46
.
その曖昧な態度に男はすねたように溜息をつき、壊れ物を扱うような仕草で伊野尾の白い手を取った。
「Keiがここにいるなんて、夢みたいだ」
「相変わらず、うまいねぇ」
「うまいのは、褒め言葉だけじゃないよ、Kei……」
優しいキスを受け止めながら、伊野尾は男の首に腕を回し、高木のことを考えていた。
---
錆びだらけの階段を駆け上がると、薮宏太は走ってきたせいで乱れた金髪をかき上げた。
一呼吸をおいて、ドアを開ける。
「ただいま」
小さな流し台の前で、八乙女光が手を洗っていた。
「あ、宏太、おかえり。俺も今帰ったとこ」
パン屋でバイトを始めた光からは、香ばしい匂いがする。
「光、これ」
仏頂面で飾りもなく差し出した宏太の左手には、黄色い花々を麻ひもで束ねた小さなブーケがあった。
「これ、俺が作って、売り物になった初めてのブーケなんだよ……。
俺が買って来たんだ。光にあげたくって」
光は濡れた両手を急いでジーンズで拭き、抱えるようにブーケを受け取った。
しばらく身動きもせずうつむいて花束を見つめる光に、そわそわと宏太の肩が揺れる。
無言の時間に耐えられず、光、と名前を呼ぼうとした時に、顔を上げた光に「宏太」と逆に名前を呼ばれた。
「宏太、ありがとう。ガーベラだね」
「初心者でも扱いやすいから、店長がまずガーベラでやってみなさいって……。
「ふふ、期待してるよ」
光はそう答えてから、「お花屋さんは知ってる？ガーベラの花言葉」と、八重歯を見せていたずらっぽく笑う。
「え？花言葉？」
口ごもる宏太に光は優しく微笑んだ。
「〈希望〉だよ。今の俺たちにぴったりじゃない？」
その言葉に宏太は迷わず、ブーケを持つ光の手を包み、そっと口づけた。
---fin.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 252人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
しろくま(プロフ) - えみさん» えみ様、コメントありがとうございます。完結してしばらく経つお話ですが、楽しんでいただけていると、すごく嬉しいです★春から夏にかけて書いたホリッカーのあと、秋になってから始めたお話「あなたたちは誰だったの」連載中です。そちらにもぜひどうぞ（笑） (2018年10月31日 19時) (
レス) id: 58687bcc1e (このIDを非表示/違反報告)
えみ(プロフ) - ホリッカータウン、読了していませんが、すごく面白いです！設定も文章の書き方も読みやすいし、どんどん続きが気になります！でも、全部読んじゃうのが惜しいくらい面白いです。 (2018年10月31日 11時) (レス) id: 4f6a869bfd (このIDを非表示/違反報告)
しろくま(プロフ) - ney-koさん» ney-ko様、今回も遊びに来ていただきありがとうございました。キュンキュンしていただいて、うれしいです〜。ショタやぶ…気に入っていただけてニヤニヤしちゃいます。ぜひまた遊びに来てくださーい★ (2018年8月22日 19時) (レス) id: 58687bcc1e (このIDを非表示/違反報告)
ney-ko(プロフ) - 完結、おめでとうございます！ハラハラドキドキなお話で胸もキュンキュンしまくりでした〜！やぶひか、くっついて良かったです(*´ `*)幼い薮くん設定、素敵ですねぇ。ご馳走様でしたttttt (2018年8月21日 23時) (レス) id: 279b6160ea (このIDを非表示/違反報告)
しろくま(プロフ) - みるみるみるきーさん» みる様、最後までありがとうございました。松濤のぼっちゃま、あーりー（笑）お話しの中で実は一番気に入ったのがあーりーです★ただし、どう考えてもありいのでは終わらなかった…そのため、こんな終わり方ですわ〜。どっちもイケる…深く賛同いたします。 (2018年8月21日 0時) (レス) id: 58687bcc1e (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
