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伊野尾は水色の瓶を傾けると、あっという間にラムネを飲み干した。
カラン、と瓶に閉じ込められたビー玉が転がる。
「ちょ、ちよっと、いのちゃんってば、なにしてんのっ」
慌てた様子で童顔の男が伊野尾の肩を叩いて、
「子供からラムネ取り上げたりして――だめだよ。きみ、ごめんね？
代わりのものを買ってくるから、待ってて」
と言い置いて、慌てた様子でラムネの屋台へと駆けてゆく。
コドモ、と言われた宏太は不満そうに舌打ちをした。
「薮宏太君？あの夜以来だな。こんな所で高木の愛人と遊んでるんだから、元気になったってことだね」
くくくっ、と嫌味を含んだ声音で嘲笑する伊野尾に頭にきた宏太は、「クソ黙れ、このヘンタイ」と悪態をついて小石を力いっぱい蹴る。
「宏太」
光が固い声で制してベンチから立ち上がり、「伊野尾さん」と改まった声で言い、「俺は高木さんに振られたんです。もう、高木さんとは別れました｣
黄色いスプリングコートのポケットから、キーを取り出す。
「これ……マンションの鍵です。高木さんに返して下さい｣
伊野尾はしばらくその鍵を垂れ目で見つめてから、「あ、そうなんだ」と軽く答えて受け取り、それ以上、理由を聞いたり、事情を尋ねるような真似はしない。
代わりに、「夜桜、きれーだよねー」と目を細めて言い、宏太に向かって「あのちっちゃい奴、有岡大貴だよ。有岡製薬の御曹司。ラムネを飲んじゃったお詫びに紹介してあげる」と低く笑った。
宏太は息を止めて、両手を固く握りしめた。
「お待たせ」
ラムネの瓶と綿あめを持って戻ってきた有岡は、
「これ、いのちゃんが飲んじゃった分のラムネ。こっちは俺のおごり」
綿あめをひとつずつ光と宏太に押し付け、にこり、と笑った。
「有岡君。紹介するよ。こっちが八乙女光君。ふふふ、ほら、例の高木の愛人くん。
でも、別れたんだってさ。
そんで、こっちが薮宏太君――薮宏一主任研究員の息子だよ」
伊野尾はのんびりした口調で言い、有岡は息を飲んで自分より背の高い宏太を見上げる。
たしかに、その凛々しい眉や鋭さを含んだ眼差しは記憶の中の薮主任と似ていた。
「私、有岡大貴です。新人の頃、薮主任の下でお世話になっていました」
有岡は表情を引き締めて丁寧に言い、「薮主任によく似ていらっしゃるね」と微笑む。
人当たりのいい有岡の態度は、宏太が想像していたあくどいオトナの姿とは違っており、それが宏太を戸惑わせた。
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しろくま(プロフ) - えみさん» えみ様、コメントありがとうございます。完結してしばらく経つお話ですが、楽しんでいただけていると、すごく嬉しいです★春から夏にかけて書いたホリッカーのあと、秋になってから始めたお話「あなたたちは誰だったの」連載中です。そちらにもぜひどうぞ（笑） (2018年10月31日 19時) (
レス) id: 58687bcc1e (このIDを非表示/違反報告)
えみ(プロフ) - ホリッカータウン、読了していませんが、すごく面白いです！設定も文章の書き方も読みやすいし、どんどん続きが気になります！でも、全部読んじゃうのが惜しいくらい面白いです。 (2018年10月31日 11時) (レス) id: 4f6a869bfd (このIDを非表示/違反報告)
しろくま(プロフ) - ney-koさん» ney-ko様、今回も遊びに来ていただきありがとうございました。キュンキュンしていただいて、うれしいです〜。ショタやぶ…気に入っていただけてニヤニヤしちゃいます。ぜひまた遊びに来てくださーい★ (2018年8月22日 19時) (レス) id: 58687bcc1e (このIDを非表示/違反報告)
ney-ko(プロフ) - 完結、おめでとうございます！ハラハラドキドキなお話で胸もキュンキュンしまくりでした〜！やぶひか、くっついて良かったです(*´ `*)幼い薮くん設定、素敵ですねぇ。ご馳走様でしたttttt (2018年8月21日 23時) (レス) id: 279b6160ea (このIDを非表示/違反報告)
しろくま(プロフ) - みるみるみるきーさん» みる様、最後までありがとうございました。松濤のぼっちゃま、あーりー（笑）お話しの中で実は一番気に入ったのがあーりーです★ただし、どう考えてもありいのでは終わらなかった…そのため、こんな終わり方ですわ〜。どっちもイケる…深く賛同いたします。 (2018年8月21日 0時) (レス) id: 58687bcc1e (このIDを非表示/違反報告)
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