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伊野尾の前に置かれた白いジノリのコーヒーカップはブラックだった。
――高木雄也は、いのちゃんのコーヒーの好み、知らないんだ。
いつも会社で伊野尾がコーヒーを飲むとき、必ずアメリカンに少しだけミルクを加えている。
それを知っている有岡は、俺の方がいのちゃんを知っているのだ、と自分に言い聞かせる。
少なくとも、昼間の、研究者としてのいのちゃんのことは、高木よりも自分の方が知っているんだから。
「で？有岡くん、ここに“高木雄也のコーヒー”を飲みにきたわけじゃないだろ」
伊野尾にせっつかれて、有岡は「その前に聞きたいんですけど」と真っすぐに高木の目を見る。
「俺は、いのちゃんと付き合いたいと思っていて、今日、昼に告白してます。
高木さんとの関係は存じ上げていますが、いのちゃんがOKなら、俺と付き合っても構わないんでしょうね？」
「…ちょっ、有岡くん――!」
「ふふ、構わないさ。俺は別に伊野尾くんのただの同級生だから」
焦る伊野尾を横目に、長い脚を組みなおした高木は面白そうに笑う。
「すごいね、伊野尾くん。玉の輿みたいじゃん」
「バカ木ッ！――有岡くんも何言ってんだよ！」
「一応、許可もらっておこうかと思って。
これで安心していのちゃんの返事を待てるよ。一週間後だよね」
有岡は大きな黒い瞳に遠足を待つ子供のような期待を乗せて、にっこりと微笑んでコーヒーカップを口に運ぶ。
そして、「おいしい」と満更お世辞でもない感想をスルリと述べて、「サライトに依存性があるっていうのは、いのちゃんも知ってるんでしょ」と不意に核心をつく。
「サライトのデータ改ざんは、ホントは大したことじゃない。
薬効を薮宏一が〈盛った〉のは事実だけど、抗凝固作用はたしかにあるわけだし、それは追加の試験でも証明されてる」
有岡は実験結果を報告するときのように、生真面目な顔をしていた。
「ただ……副作用が問題だった。
精神的にも身体的にも依存性が高くて、急に服用を中止すると、離脱症状が出る。
心血管系への影響による血圧の変動が大きいし、気分不快、不眠、焦燥といった精神症状もある。
薮宏一がデータを改ざんしたのは、効果を盛りたかったんじゃなくて、副作用を隠したかったんだよ」
富士樹海の奥で、やつれ果てた薮宏一が高木に告白した内容と、これまで伊野尾が集めてきた情報、そして有岡の話はまったく同じだった。
「依存性か……」
高木は髪をかき上げて苦々しくつぶやいた。
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しろくま(プロフ) - えみさん» えみ様、コメントありがとうございます。完結してしばらく経つお話ですが、楽しんでいただけていると、すごく嬉しいです★春から夏にかけて書いたホリッカーのあと、秋になってから始めたお話「あなたたちは誰だったの」連載中です。そちらにもぜひどうぞ（笑） (2018年10月31日 19時) (
レス) id: 58687bcc1e (このIDを非表示/違反報告)
えみ(プロフ) - ホリッカータウン、読了していませんが、すごく面白いです！設定も文章の書き方も読みやすいし、どんどん続きが気になります！でも、全部読んじゃうのが惜しいくらい面白いです。 (2018年10月31日 11時) (レス) id: 4f6a869bfd (このIDを非表示/違反報告)
しろくま(プロフ) - ney-koさん» ney-ko様、今回も遊びに来ていただきありがとうございました。キュンキュンしていただいて、うれしいです〜。ショタやぶ…気に入っていただけてニヤニヤしちゃいます。ぜひまた遊びに来てくださーい★ (2018年8月22日 19時) (レス) id: 58687bcc1e (このIDを非表示/違反報告)
ney-ko(プロフ) - 完結、おめでとうございます！ハラハラドキドキなお話で胸もキュンキュンしまくりでした〜！やぶひか、くっついて良かったです(*´ `*)幼い薮くん設定、素敵ですねぇ。ご馳走様でしたttttt (2018年8月21日 23時) (レス) id: 279b6160ea (このIDを非表示/違反報告)
しろくま(プロフ) - みるみるみるきーさん» みる様、最後までありがとうございました。松濤のぼっちゃま、あーりー（笑）お話しの中で実は一番気に入ったのがあーりーです★ただし、どう考えてもありいのでは終わらなかった…そのため、こんな終わり方ですわ〜。どっちもイケる…深く賛同いたします。 (2018年8月21日 0時) (レス) id: 58687bcc1e (このIDを非表示/違反報告)
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