62--本音--tkin＋ar ページ17
.
「……鳴ってるぞ」
無視しようとした電子音を高木から指摘され、伊野尾は気分を害してワイングラスを音を立てて置き、デニムのポケットからスマホを取り出した。
「あ、坊ちゃんからだ」
ありおか、と表示された画面を見せ、「出ようか？」と首をかしげる。
頷く高木に、伊野尾は「そういや、今日、坊ちゃんから付き合ってって告白されたんだよな〜」と軽く言って高木の様子をうかがう。
高木は何も言わずにグラスを傾けている。
――少しは妬けよ、そう言いかけて、言葉を飲み込む。
縋るようなことを言えば、高木との関係は終わる。
自分ひとりで立っているから、高木は安心して伊野尾を抱いている。
ただでさえ、今夜は行為の最中に「好きだ」とうっかり言ってしまっていたのだから、普段なら軽口に見せかけて言う本音も、口にはできなかった。
スマホをタップすると、『いのちゃん、今大丈夫？』と有岡大貴の軽やかな声が応じた。
「うん、いいけど、どうしたの」
『俺、今、いのちゃんのマンションの近くに来てるんだけど、出てこれる？』
「え……？」
伊野尾はマンションを教えておらず、住所はおろか、最寄り駅すら話していないはずだった。
動揺する伊野尾に、有岡は穏やかな口調で続けた。
『いのちゃんの部屋、ウチの会社が高木雄也さんに提供してるところなんでしょ？
あ、もしかして今、高木さんがいるの？』
突然、高木の名前が持ち出され、咄嗟に返答ができない。
なんで有岡が高木を知っているのか、高木と伊野尾の関係をなぜ知っているのか。
高木は表情を変えない。
「有岡くん、なんで急にそんなことを言うんだよ」
『今日、昼に週刊リアライズの岡本さんと中島さんが来てたでしょ。
ラウンジにカメラとマイクがあるって知らなかった？
企業スパイ予防のためのカメラだけどね、画質も音質も最高レベルなんだよ。
良く見えたし、良く聞こえたよ』
「――悪趣味」
平板な声で伊野尾は答え、お人好しのお坊ちゃんのはずの有岡に後ろ暗い部分を知られ、伊野尾は苛立ちと困惑で唇を噛んだ。
『いのちゃん？誤解しないで。俺、いのちゃんのこと、本気だよ。
オヤジから高木さんや銀龍会のこと――それに、薮宏一さんと、サライトのことも聞いたから、教えてあげようと思ってさ。
何なら、高木さんも一緒に来る？俺も一度挨拶しておきたいし』
電話越しの有岡の声はあくまでも落ち着き払っていた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 252人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
しろくま(プロフ) - えみさん» えみ様、コメントありがとうございます。完結してしばらく経つお話ですが、楽しんでいただけていると、すごく嬉しいです★春から夏にかけて書いたホリッカーのあと、秋になってから始めたお話「あなたたちは誰だったの」連載中です。そちらにもぜひどうぞ（笑） (2018年10月31日 19時) (
レス) id: 58687bcc1e (このIDを非表示/違反報告)
えみ(プロフ) - ホリッカータウン、読了していませんが、すごく面白いです！設定も文章の書き方も読みやすいし、どんどん続きが気になります！でも、全部読んじゃうのが惜しいくらい面白いです。 (2018年10月31日 11時) (レス) id: 4f6a869bfd (このIDを非表示/違反報告)
しろくま(プロフ) - ney-koさん» ney-ko様、今回も遊びに来ていただきありがとうございました。キュンキュンしていただいて、うれしいです〜。ショタやぶ…気に入っていただけてニヤニヤしちゃいます。ぜひまた遊びに来てくださーい★ (2018年8月22日 19時) (レス) id: 58687bcc1e (このIDを非表示/違反報告)
ney-ko(プロフ) - 完結、おめでとうございます！ハラハラドキドキなお話で胸もキュンキュンしまくりでした〜！やぶひか、くっついて良かったです(*´ `*)幼い薮くん設定、素敵ですねぇ。ご馳走様でしたttttt (2018年8月21日 23時) (レス) id: 279b6160ea (このIDを非表示/違反報告)
しろくま(プロフ) - みるみるみるきーさん» みる様、最後までありがとうございました。松濤のぼっちゃま、あーりー（笑）お話しの中で実は一番気に入ったのがあーりーです★ただし、どう考えてもありいのでは終わらなかった…そのため、こんな終わり方ですわ〜。どっちもイケる…深く賛同いたします。 (2018年8月21日 0時) (レス) id: 58687bcc1e (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
