さぁ覚悟を決めて【ybhk】

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会議室には、もう全員が来ている。


事務所の偉い人。レコード会社の偉い人。メンバー、スタッフ。総勢60人。

演者代表で俺が挨拶する。


「…なので、それぞれの魅力をファンに伝えられるようなショーにしてみたいです。
演者は全力でいきます。どうぞよろしくおねがいします」

大きな拍手。

大人の挨拶的なもんは、俺の得意技。


アルバムに沿ったアリーナツアーのコンセプト、セット、舞台効果、セットリストの選定、アレンジ、衣装、振り付け、照明、グッズのデザイン、ポスター、パンフ…

昔はこーゆーのは、全部オトナが決めることと思っていた。

でも、俺らもただの演者では満足できなくなってる。

一つずつ、俺たちらしさを見つけたい。


山田、大ちゃん、俺がショーの構成、光、圭人、裕翔がセットリスト、高木、いのちゃん、知念が衣装、なんて感じでスタッフに混じり、演者側の意見を伝える。

光は夢中になったときの癖で、唇を尖らせてる。

時々、圭人のエア・ギターに合わせて、エア・ベースを弾いて見せたり。


ピアス事件までの機嫌の悪さが嘘みたいだ。



おおまかな話し合いだけなのに5時間。

めちゃ疲れた。

ああ、こんな時、光とまったり出来たらなあ…

光の手料理とか…光とふたりで…

えろ妄想スイッチが入りそうになる。

おっと、これ以上はダメ。

1人で赤面する。



「メシ行こ」

知念が声を掛けてくる。

「今日は光と一緒でもいい?」

いやいやいやむしろお願いします！


知念は光に、タクシーを呼んでよー、と可愛くお願いして、俺に確認する。

「こないだ、財布と行ったタイ料理の店が美味しくって。そこでいい?」

「財布？」

「ふふ、山田。あいつ、僕の財布だから」

「こっっっっわっ」

「今日はちゃんと割り勘だよ」

「だれがおめーにおごるか、自分の財布で払え。当たり前だ」

「はいはい、いくら僕でもおじさんにはおごってもらいませーん。
…ねーねーりょうすけぇ、これから僕、おじさんたちとご飯食べてくる。
こないだのタイ料理、また行ってくるよ」

まだスタッフと何か真面目に話していた山田は、知念に片手をあげて「わかった」の合図。

ジーンズのポケットから財布を出すと、ほらっ、と無造作に万札を数枚渡し、そのままスタッフとの会話に戻る。

かっけぇー。

…なるほど、これが「僕の財布」か。



「タクシー来たってよ」

光が珍しくにこにこしながら俺に手を振る。


ああ、かわいい。

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