さぁ覚悟を決めて【ybhk】

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光は本番前と同じところに座って、同じように音楽を聴いている。

「光、じゃあ行こう」

なるべく当たり前のようにさりげなく声をかける。

「へー珍しい、薮ちゃんと光と、ごはんなんだあっ」

大貴が「俺も俺も行きたい」と乗りかかってくる。



……空気読め、この五歳児。



「大ちゃんは俺とメシ行こうよ、こないだ言ってたとこ」

俺がキレる寸前に、ふわふわと伊野尾が笑いながら大貴を誘う。

「あ、ちゃんの好きなごはんの店?」

「新米キープしたんだ。行こうよ」

「うんうん、行く行く」

大貴の気分はあっという間に変わり、伊野尾と一緒に「おっ疲れー」なんて言いながら出ていく。

ドアが閉まる寸前、伊野尾がちらりと俺をみた。

眠そうな目が笑っている。

……伊野尾に、こんど何かおごらねーと。



タクシーの中。

光は黙ってイヤフォンをしたまま、ぼんやり窓の外を見ている。



こーゆー時、俺はどうしたらいいかわからない。

女の子と一緒なら、優しく手をつないであげたり、したらいいのかもしれない。

でも、まさか、そんなことできねーな。



ドキドキする。

光に心臓の音が聞こえてないか、心配になるほど。

早く目的のバーに着く事だけをひたすらに願う。

テレビ局から例のバーまで、15分ほどだった。

あれからも、俺は結構な割合ででここに通っていた。

ほんとに酒がうまいこともあるけど、あの時の光を思い出したくて、気づけはこの店にいる。

「いらっしゃいませ」

「こんばんは」

カウンター席に座り、マスターとも慣れた感じで話をする。

ここのマスターは無駄口をたたかない。

俺が芸能人だって気づいているのかいないのか。



「俺はいつもの。…光は?こないだジントニックだったっけ」

一か月も前の酒を覚えているって、キモイかな?

「いや、俺もウィスキーにする」

「え…大丈夫か」

光が強い酒を飲むところなんて見たことない。

俺の動揺を見て、光は勝ち誇ったように笑う。

「俺だってウイスキーくらい飲むよ。……シングル、水割りで」

ああ、水割りか、よかった。



ストレートをチェイサーで、なんて言われたら立ち直れない。

俺のダブルのロック、光の水割り。

カチンと乾杯して、お互い、黙って酒を飲む。

琥珀色の液体は光の髪の色にそっくりだった。



そうだ、今がチャンスじゃねーのか。

ふいに思いつき、カバンから箱を取り出す。

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