弐佰伍拾伍頁─奇妙ナ男 6─ ページ29
「......あれ?此処は」
床に倒れ込んでいた敦がゆっくりと躰を起こし、辺りを見渡して小さく呟いた。
少し居眠りをしていたような、そんなふわふわとした気分だった。
周りには同じく床に座り込む従業員と客たち。
彼等も敦と同様に何か困惑しているようだった。
「有島さん、その右後ろのキャップを被った人も仲間だよ。どうやら三人組みたい」
人混みの隙間を抜けて透き通った声がAの耳に届く。
Aは後ろに目を向けて対象人物を確認する。
それからの彼女の行動は実に速やかだった。
異能で生み出した蔓を使って後方にいた男の手足を縛る。
男は何か別のことに気を取られていたのか絡め取られるまで上の空であり、抵抗しようと腕に力を入れた時には既に遅く指一本すら動かせない状態になっていた。
『敦君、警察に連絡を』
「え...あ、はいっ!」
まるで先程までの記憶を失ったような敦の間の空いた返事。
しかしその場の異様さに気付き、慌てて携帯電話を取り出そうとポケットに手を入れる。
だがその手が目的の物を掴むことは無かった。
「君!銀行の電話からかけた方がいいよ!この中から見つけるの大変でしょ?」
大量の何かが入った白い袋を掲げて敦に声を飛ばす赤髪の青年。
彼の云い方から推測するにその中には携帯電話が入っているのだろう。
Aは他の強盗犯の元へと向かいつつ青年に訊ねた。
『なんで此処に居るんですか』
「まぁ何となくかな。何となく、今日は此処で楽しいことが起こる気がしたんだよ」
そう云って微笑む青年。
彼のその表情を見てAは僅かに苦笑いを浮かべ、楽しめたようで良かったですと返した。
強盗犯の男は力無く床に倒れ込んでいたが呼吸は安定しており、意識を失っているだけのようだった。
「そんなことより、こうして直接会って喋るのは久しぶりだよね。さぁAちゃん!僕の胸に飛び込んでおいで!」
『......志賀さん、私今目が痒いんですが赤くなってないか見てもらえませんか?』
「勿論良いよ!────って、それ僕のこと殺す気でしょ!?」
本気なのか冗談なのか。
彼女の異能を知っている者が聞けば肝を冷やすであろうその会話を青年は茶化しつつ笑って続けた。
そんな二人を見て敦がそろりと口を開く。
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作者名:煉華 | 作成日時:2023年1月26日 23時