弐佰伍拾参頁─奇妙ナ男 4─ ページ27
「よし。なら、金庫に案内しろ」
「は、はいッ!」
銃口を向けられた男性は依然として顔を逸らして薄目になっており、その声は極度の緊張のせいで先程よりも高くなっていた。
腕を縛られたまま立ち上がる男性。
途中何度かふらつき難しそうだったが、その度に目の前を銃がちらつきやっとの思いで立ち上がった。
「さっきも云ったが変な動きを見せた瞬間に発砲するからな!まぁ、とんだ馬鹿じゃねぇ限りはそんな事しねぇだろうがよ」
「お、お母さん、怖いよぉ...っ」
「大人しくしていたら大丈夫だからね。ほら、泣き止んで」
「お前、さっきから何喋ってんだぁ?早くそいつを黙らせろ。耳障りなんだよ!」
男が親子に拳銃を向けた。
それを見たAは唇を噛み気持ちを抑え込む。
『...敦君。もう異能使っちゃっても善いかな。善いよね』
「い、いや、駄目ですよ!?」
先程自身を止めてくれた彼女を今度は敦が止める。
漠然と彼女であれば速やかにこの場を征圧出来るという考えが一瞬過るが、Aはただ声に出して気を紛らわせようとしているのだと敦は理解した。
「おい、そこの女!何勝手に立ってんだ!」
突如、男の怒号が別の方向に飛んだ。
敦達の視界に入らない後方。
そこで一人の人物がすっと立ち上がり、悠々と銀行から出ようとしていた。
「聞こえてねぇのか!?赤髪のお前だよッ!!」
「あれ?もしかして僕に云ってたの?」
首の後ろで結ばれた綺麗な赤く長い髪。
自らの特徴を示され、ようやく自身のことだと理解したその人物は微笑んだ。
「ごめんね、お兄さん。僕、女じゃないから気づかなかったよ」
「手前、巫山戯てんのかッ!?」
すらりとした細身の躰にゆったりとした服装。
口を開かなければ誰もが女性だと見間違うようなその風貌。
強盗犯の男が親子から銃口をその人物に向け直す。
しかし青年はそんなことなど気にもしていないかのように男へ向かって足を進めた。
「そうそう。そんなか弱い女性に銃なんて物騒な物向けちゃ駄目だよ。......あ、もしかしてお兄さんって銃が無いと女子供にも勝てないくらい弱いのぉ?」
そう云って青年は口元に手を当ててクスクスと嘲笑した。
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作者名:煉華 | 作成日時:2023年1月26日 23時