弐佰伍拾壱頁─奇妙ナ男 2─ ページ25
『此処から一番近い銀行となると、歩いて十分くらいだね』
「はい。今回はこの書類を届けることと、新入社員の口座を作ることが目的だそうです」
大きな茶封筒を大切そうに両手で抱えて持つ敦。
Aはその姿に率直な指摘が頭に浮かんだが、それは重要な任務を任されて浮き足立っているであろう彼には少し可哀想だと別の言葉を発した。
『新入社員ってことは私と鏡花ちゃんのかな。私、口座は持たない主義だけど、探偵社が作ってくれるんだったらあっても善いかも』
「え、Aさん口座持ってないんですか!?」
Aさんはかなりのお金持ちだと聞いていたので意外です、と驚く敦に彼女は苦笑いで答えた。
『色んな事情があってね。作ろうとするとメリットよりもデメリットの方が大きくなっちゃうんだよ。それよりも...誰がそんなこと云ってたのかな?』
「そ、それは...」
『ま、云わなくても大体判るけど。あの人ほんと他人の個人情報をペラペラと。意思疎通なんて声出さなくても出来るんだからドライヤーで......』
その続きが声に出されることは無かったが、敦は何となく理解してしまい自分の喉に手を当てた。
Aは腕を組んで右上を向き、んーと悩ましそうに唸る。
『いや、それは逆効果か。後で絞めるくらいで善いや』
「し、絞める!?」
『大丈夫だよ〜敦君は何の心配も要らないから』
いつに無く笑顔でそう云う彼女に、敦は目を逸らして頷く他無かった。
*
あれから約十分。
二人は何事も無く無事に銀行へと辿り着いた。
平日にもかかわらず、十人を越える多くの人達が順番待ちのために幾つか置かれた長椅子に座っている。
銀行には国木田が事前に赴くことを伝えていたようで、受付の従業員に身分証明書を提示すると直ぐに奥へと通されることになった。
「では、ご案内致しま────」
バンッ...
突如聞こえた発砲音。
その場に居た皆がただ一方を向き、躰の動きを止めた。
壁に掛けられた複数の時計が時を刻む音が邪魔されることなく耳に届く。
それはまるで人だけが動くことを禁じられた魔法にかけられたようだった。
数秒後、心臓の停止を擬似的に体感したようにさっと血の気が引き、ひんやりとした嫌な感覚が全身を襲った。
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作者名:煉華 | 作成日時:2023年1月26日 23時