弐佰肆拾陸頁─両組織ノ困惑 11─ ページ20
「A、こっちにおいで。先に準備するよ」
蝶の髪飾りをつけた女性が手招く。
女性は医務室らしき部屋の扉を開けていた。
中也に軽く背中を押されたのを不満に思いつつも小走りで向う。
其処は仄かに消毒の匂いが漂っていた。
「その服じゃ元に戻ったときに色々と拙いだろう?取り敢えずこれに着替えときな」
そう云って渡されたのは、白のゆったりとしたワンピースのような病衣。
肩部分を持ち体に当てた私はその大きさにびっくりする。
『(え、こんなに大きくなれるの私。てっきり異能の使いすぎで身長は伸びないと諦めてたのに)』
「こうして改めて見ると、やっぱりあの時治療した少女はアンタだったみたいだね」
『治療...?』
「妾の異能だよ。昔、酷い怪我で運ばれてきてね」
昔......一体、何年前のことだろうか?
覚えている限りではそんな大怪我をした記憶が無いので、あるとしたらマフィアに連れてこられる前。
思えば森さんにそんな話をされたことがあるような、ないような。
「左目失明、右腕損傷。特務課にも何人か治癒異能者がいるけど間に合わなかったんだろうね。丁度瀕死の重傷が異能の発動条件な妾が選ばれた」
『......!』
女性の言葉に息が止まる。
同時に思考も止まりかけるが嘘をついていないことだけは判った。
気付けば私は片膝をつき頭を下げていた。
『そのような貴重な能力を私に使っていただきありがとうございます。救われたこの命、ぜひ貴女の為にも』
「やめておくれ。そういう仰々しくて堅苦しいのは苦手だ。その気持ちだけ有難く受け取っておくよ」
女性は恩に着せるでも見栄を張るわけでもなくひらひらと手であしらい、そのままサッとカーテンを閉められてしまった。
...これは本心なのに。
仕方なく病衣に着替えていく。
あの様子だと今のこの状態だから云っただけで、何かあっても私に話すつもりは無かったんだろうな。
元に戻っても覚えてると善いけど。
着替え終わったのとほぼ同時に奥で扉の開く音が聞こえた。
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作者名:煉華 | 作成日時:2023年1月26日 23時