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今日も新人は、寝台に居座り続ける最上の名工を眺めていた。
冬眠の準備も終盤に差し掛かり、先程、未だに腹を立てているシンシャが、横たわった老師を彼と同じように眺めて、薄荷色の反射光が背後に迫った所を、颯爽と自分が冬眠をする専用の部屋に入って行った。
振り向いた彼の赤い瞳には、鋭い光を携えた水銀が浮かんでいた。
290年前に、アクロアイトはそれを『ナミダ』だと言った。
「君も“あの時”流してたよね、『ナミダ』って言うんだったっけ…」
まだ幼かったあの頃の自分が、十年間逢うのを待ち焦がれた君の目の前で砕けた“あの時”
降りしきる金色の雨の中で、君が叫んでいた“あの時”
「先生がね、ああやってナミダを流すことをね、『泣く』って言うんだって」
自分より一回り高い長身が、この世の色を総て我がものにしたような髪が、誰も気づかない長所を見つけ出せる瞳が、仲間を守ろうとする屈強な手足が、フォスフォフィライトにとって何よりも愛しかった。
あの優しさが、甘い理想にかまけるだけだった至極無力な自分を、その手で仲間を救えるまでに育て、あの美しさが、詰まらない教科書の一ページの様な彼の日常を、鮮やかに彩った。
薄荷色の新人は、髪と同色の爪が飾る指先で、胸元から、太陽のように光輝く黄金の石を携えたペンダントを引っ張り出した。
「これね、今日の朝、もしかしたら君の破片がまだあるんじゃないかって探しに行った時にね、見つけたんだ」
日の光を放つ見事な加工が施された首飾り。それは嘗て、そこに寝そべった優美な老輩が最も愛した親友の身体だったもの。
スファレライトなる宝石が、地球から月へ連れ去られた後、地上に残された彼の左手が握っていた破片の一部。それを、当人の要望通りに加工して、首飾りとして、何処へ行くにも身に付けていた。
早朝、幼きフォスフォフィライトにこの代物について訊かれた当のルチルは、淡々と説明して、最後にこう付け加えた。
「そのペンダントは、アクロにとって、自分自身への戒めであり、ある種のスファレライトの呪いなのです。彼が今ずっと眠ったままなのは、スファレライトの強力なインクルージョンが見せる悪夢の為に不眠症に陥っていたからでしょう」
“限界だったのですよ”
* * *
「明日から冬眠が始まるんだぁ！」
そう告げると徐に手中に折りたたまっていたシーツを広げ、アクロアイトの3分の2を覆うと、その上に伸し掛る様にして、その細身を抱き締めた。
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ワッさん+a(プロフ) - ベルモットさん» お久しぶりです！後半読んでくださったんですね…！文字数が多めなのでなかなか読み進めづらいのではないかと不安でしたが、とても安心しました…！数々の勿体ないお言葉ありがとうございます！今後の制作の上、とても励みになります！！ (2020年9月28日 19時) (
レス) id: 17ce48cdec (このIDを非表示/違反報告)
ベルモット - 恩着せがましかもしれませんが、実は私も個人的に、夢小説を投稿している身で、この小説を読み、語彙欲は必ず要ると再確認出来ました。尊敬します。 (2020年9月28日 2時) (レス) id: e8970a172e (このIDを非表示/違反報告)
ベルモット - お久しぶりです。後半の話を読みました。シンシャが嫉妬したり、夢主を心配する場面や感情の葛藤が丁寧に書かれていて凄いと重いました。 (2020年9月28日 2時) (レス) id: e8970a172e (このIDを非表示/違反報告)
ワッさん+a(プロフ) - ベルモットさん» 作品をお読み頂きありがとうございます！ 主人公の関係性などの設定にはかなり拘って制作しておりますので、その点に注目していただけたこと、とても嬉しく思います！ これからも少しずつにはなりますが、更新して行きますので、応援のほどよろしくお願い致します！！ (2020年8月26日 9時) (レス) id: 2ac34ed691 (このIDを非表示/違反報告)
ベルモット - ワッさん＋aさんの夢小説作品を読みました。夢主のキャラ設定が、すごく凝っていますね。元パートーとの関係性が好みでした。 (2020年8月26日 8時) (レス) id: e8970a172e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ワッさん | 作成日時：2019年1月8日 6時
