□スファロス ページ32
シンシャが、慣れぬ学校を後にしようと、医務用の寝台を立ち上がり、固い靴底の音を規則的に立てながら、その場を立ち去ろうとした。そのところ、未だ寝台の上に滞在し続ける新人はどこか不満げな顔で、彼を引き止めた。「シンシャって、アクロのこと好きなの？」当然ながら、これは彼を引き留めることを意図して放たれた言葉ではなかった事は、誰の目にも明白な事だろう。それを分かっていながら、慎重で冷静な彼は、調子を失した様に、顔全体を羞恥に紅潮させ、怒気をせき止める為に握った拳を、振り返ると共に後方へ投げ出した。
個性ある生徒たちの中でも一際鈍感の部類に入るフォスフォフィライトの目にもその動揺は明白な波を荒立てていた。これは照れ隠しにほかならない。
「ちっ、ちがッ！！ な、なぜそうなる！？」
「いやだって、君あんなにも露骨だったじゃない。『寂しい気もしないでもない』なんて言っちゃってさ、フツーそう思うでしょーよ！」
彼が今になって、癇癪を起こし、頬を膨れさせている理由を一層赤面して肩を竦める赤い彼は考えていた。そして、その刹那に、フォスフォフィライトにとって、彼らしくもない不敵な笑みを零すと、直ぐにもとの仏頂面に転じて、断言した。
「嫉妬するくらいなら、もっとあいつの事を知ろうとしてやったらどうなんだ？」
その言葉は、ここ二百年余り、最も鋭利な決定打という弾丸になって、薄荷色の新入りを貫いた。あの彼を分かっていたつもりでいたことに気づいてしまったことへの衝撃なのか、それとも、アクロアイトが、長年共に生きている自分に対して、何も話してくれていないことへの不満が驚きと化して面に表れたのか、若年の彼には、検討のつかないことであったが。この言及が向けられた彼の心が少なからず不意の打撃を受けたことは間違いないのだろう。
だが、慎重な彼も彼で、間違った指摘をした訳でもなかったのを分かってもらいたい。
対する顰めっ面にさらにしわ寄せした、険しい顔をしめすシンシャは、春の夜風に見事な赤髪を乗せて、深紅と対象的な白い身体を、建物の出口に向かって、颯爽と翻した。
「要件が終わったなら、『職場』に戻るぞ」
再び、妙に響く足音を立てて去っていく彼を、今度のフォスフォフィライトは、黙って見守っていた。だがそのうち、歩き去る彼が、建物を出る一歩手前。たった一瞬だけ立ち止まりこう告げた。
「ありがとう、あいつを連れて来てくれて」
───フォスフォフィライト
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ワッさん+a(プロフ) - ベルモットさん» お久しぶりです！後半読んでくださったんですね…！文字数が多めなのでなかなか読み進めづらいのではないかと不安でしたが、とても安心しました…！数々の勿体ないお言葉ありがとうございます！今後の制作の上、とても励みになります！！ (2020年9月28日 19時) (
レス) id: 17ce48cdec (このIDを非表示/違反報告)
ベルモット - 恩着せがましかもしれませんが、実は私も個人的に、夢小説を投稿している身で、この小説を読み、語彙欲は必ず要ると再確認出来ました。尊敬します。 (2020年9月28日 2時) (レス) id: e8970a172e (このIDを非表示/違反報告)
ベルモット - お久しぶりです。後半の話を読みました。シンシャが嫉妬したり、夢主を心配する場面や感情の葛藤が丁寧に書かれていて凄いと重いました。 (2020年9月28日 2時) (レス) id: e8970a172e (このIDを非表示/違反報告)
ワッさん+a(プロフ) - ベルモットさん» 作品をお読み頂きありがとうございます！ 主人公の関係性などの設定にはかなり拘って制作しておりますので、その点に注目していただけたこと、とても嬉しく思います！ これからも少しずつにはなりますが、更新して行きますので、応援のほどよろしくお願い致します！！ (2020年8月26日 9時) (レス) id: 2ac34ed691 (このIDを非表示/違反報告)
ベルモット - ワッさん＋aさんの夢小説作品を読みました。夢主のキャラ設定が、すごく凝っていますね。元パートーとの関係性が好みでした。 (2020年8月26日 8時) (レス) id: e8970a172e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ワッさん | 作成日時：2019年1月8日 6時
