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あれから290年である。
この薄荷色の新人が、緒の浜で、長い時をさまよい産まれてから、長く早くも、三百年が経った。一通りの勉学はすっかりと終え、何処ぞの誰かと同じ様に全くもって何をしたらいいのか分からない毎日を、太陽の光を養分にする様に過ごしていた。誰にも必要とされず、たった一人で堅牢な学校と言う広々とした牢獄に篭もりきりに成っている影は、時々、遠い遠い手の届かない場所に連れて行かれた『彼』と重なる。ただ、一つ違いがあるとすれば、『彼』は勤勉で物わかりの良い大人であったこと、そして浅瀬色の彼は、幼げな、多少の甘さが精神の奥底の真ん中に、行儀悪く腰掛けていること。そのたった一つの違いの大小は僕には測りかねないのだが、どうにも、他の同胞達は、彼が『理想に縋る怠け者』であると批評している様であった。
「あまり、彼の甘えに乗らないで下さい。貴方の孫では無いんですからそう飴ばかり与えずに、偶には、柔い鞭でも打ってあげてはいかがですか？」ひしゃげた眉でルチルに釘を打たれたこともある。
少し、僕なりの弁解をしておくとすると、僕は同胞達に比べればずっと若く、幼子である三百歳になる彼を甘やかしているわけでも、まして特別扱いをしているわけでも無かった。寧ろ、フォスフォフィライトは、何も出来ない日々に、自己嫌悪と仲間の軽い一言で、酷く精神を削られる毎日を送っている筈だ。彼がこれ以上皆に自分に関しての苦労をかけさせまいと、労うつもりで心の奥に限りなくたまり続ける鉛を、笑顔のベールで覆い隠しているだけだ。それを少しでも和らげて、未熟な精神を支える柱になってやろうと考えていたのだ。誰の役にも立てないのなら居てもいなくても同じと、一時でも考えることが無いように仕向けようとしただけだった。
鑑みれば、僕が彼に与える糖分は傍から見れば、フォスフォフィライトに見合わぬ分量で、異常なまでに過度であるのだろう。ただ、全体を見て通せば、日々しなって、有り得ない方向から飛んでくる仲間達からの無数の言葉の鞭は、治癒の時間が足りないほどに数多にあたる。
だから、彼にとって、僕が吐き出す糖の量は十分以下である事は間違いなかった。貴方は何もしなくていいという、皆の、絹のような優しさが、静かに彼の細い首を絞めていた。
「博物誌か。いいじゃないか、静かに散歩して身辺をよく知れる穏やかな仕事だ。楽しくないって言うんなら、代わってもらいたいくらいさ」
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ワッさん+a(プロフ) - ベルモットさん» お久しぶりです！後半読んでくださったんですね…！文字数が多めなのでなかなか読み進めづらいのではないかと不安でしたが、とても安心しました…！数々の勿体ないお言葉ありがとうございます！今後の制作の上、とても励みになります！！ (2020年9月28日 19時) (
レス) id: 17ce48cdec (このIDを非表示/違反報告)
ベルモット - 恩着せがましかもしれませんが、実は私も個人的に、夢小説を投稿している身で、この小説を読み、語彙欲は必ず要ると再確認出来ました。尊敬します。 (2020年9月28日 2時) (レス) id: e8970a172e (このIDを非表示/違反報告)
ベルモット - お久しぶりです。後半の話を読みました。シンシャが嫉妬したり、夢主を心配する場面や感情の葛藤が丁寧に書かれていて凄いと重いました。 (2020年9月28日 2時) (レス) id: e8970a172e (このIDを非表示/違反報告)
ワッさん+a(プロフ) - ベルモットさん» 作品をお読み頂きありがとうございます！ 主人公の関係性などの設定にはかなり拘って制作しておりますので、その点に注目していただけたこと、とても嬉しく思います！ これからも少しずつにはなりますが、更新して行きますので、応援のほどよろしくお願い致します！！ (2020年8月26日 9時) (レス) id: 2ac34ed691 (このIDを非表示/違反報告)
ベルモット - ワッさん＋aさんの夢小説作品を読みました。夢主のキャラ設定が、すごく凝っていますね。元パートーとの関係性が好みでした。 (2020年8月26日 8時) (レス) id: e8970a172e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ワッさん | 作成日時：2019年1月8日 6時
