ADAPTER <ｱﾀﾞﾌﾟﾀｰ> (ページ40)

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　聖ナサニエル教会の墓地は、そこから少し離れた林を超えた先の、蜂蜜色の建造物が連なる街を一望できる丘にある。ネモフィラとデイジーとラベンダーの咲く、美しい丘の上には、鮮やかな花々に彩られるように墓石が立ち並んでおり、死者は彩り豊かな静寂の中で静かに眠っている。日々多くの参拝者と観光客が訪れるこの丘には、二人の人影以外の姿はなく、今時分、自然のままの静寂がそこに鎮座していた。向こうの林と、若草が、風に揺られる微かな音が、悲哀に胸を満たされる未亡人達の耳を柔らかく撫でて行った。
　二人の人影のうち、一人は真っ黒な人影で、もう一人は太陽の光をおおらかに反射するほどの真っ白な人影だった。白い人影は、徐々に相手に向かって歩いており、黒い人影は、丘の先に一人ぽつんと立ち尽くしていた。その目の前には、特別大きくもなく小さくもなく、変わった形をしている訳でもない白い墓石が立っている。地面に落ちる影と同じような黒く鈍重な瞳が、その石肌をじっと見据えていた。伸びた草がその人物の足を撫で、その黒い髪を揺らす穏やかな風が、その人物を慰めているようにも思えた。

「気色悪いですね、貴女が墓参りだなんて」

　最初にそう毒づいたのは、真っ白な人影の方だった。まさに先程の言葉からは想像もつかない純粋無垢と言うべき笑顔の人物に向かって、街の向こうを見据える黒い人影は、

「やはり君は変わらないんだな。相も変わらず僕のことがお嫌いなようだ」
「おやおや心外ですね、嫌いだなんて滅相もない。私は昔も今も、貴女の熱狂的な大ファンですよ────“シャールさん”」

　シャールと呼ばれた黒い人影は、体ごとその端麗な顔をもう一人の人物へと寄越した。癖のある黒い短髪を撫でていた風が、彼女の背中を押すように、或いは白い人影へと導くように、吹き抜けて行った。

「…その呼び名はシモンから聞いたのかい、“ルーク牧師”」
「ええ、特別貴女のことをまるで親のように慕っていますからね、彼は。成長する度に貴女とよく似てきていますよ、時々生意気で子供じみているところが特にね。────あの子には困ったものです、本当は、貴女にもあの子の道を曲げないようにして頂きたい所なのですけれど。毎度のように家出騒動では、こちらも気が気ではありませんし、なによりも、貴女のやっている仕事は、十六歳の少年が加担するには余りにも危険で、重すぎます」

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