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「シャールさんの事か?」
「シャールねぇ…愛称で呼ぶほど親しいようにも思えないけれど。彼? 彼女? の名前って、シャーリー・ウィル・スウィニーだろ。何処か小説に出てくるの殺人鬼みたいな名前だよね」
ストロベリーブロンドの兄は、顎に手を当てて考える仕草をとったまま、記憶を探るように言った。
「……それが、ずっと気掛かりなことが。俺が初めてあの人に出会って、それからこの孤児院に送り届けてくれた最後、あの人に名前を聞いてみた時のことなんだが。あの人はあの時、俺に、『シャール』って愛称で自己紹介した。だからこの孤児院を出てあの人を追うまでの数年間、俺はあの人の名前を『シャール』だと思い込んでいたんだ」
最初はそう呼んで欲しいから、このような言動を取ったのだろうと、とくに深く追求することは無かったが、今考えてみれば、“あの人物”が、自分の名前を愛称で教えるような陽気な人物だとは思えない。
「偽名のようなものじゃないのかい? よく分からないけれど、あの人の立場上、本名を知られるとマズイとか」
「それにしては浅はかだ。幾ら十歳の子供に対してだって、シャールさんはいつも抜け目ない。そもそも、こんなことに対して、俺たちが疑問を持つ様になる事自体がおかしいんだ。あの人は何時だって痕跡を残さないし、少しの言動からも意図を悟らせない。それに、隣にあんな派手な女が付いていながら、まるで誰の記憶にも残っていないような…」
「でも、兄さんは見つけてるじゃないか。ってことは、あの兄さんの言う天才にも、抜け目はあるってことさ」
「それは…違う」
首を傾げた弟を一瞥して、兄は、自らの赤い義眼に手を当ててこう言った、「あの人は、“あの人”にしか見つけられないんだ」と。その言葉が何を指し示しているのか、当然のように分からないアーノルドは、首を反対側に傾げて、その右目の義眼に何か関係があるのかい、と兄の説明を促した。
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作者名:ワッさん | 作者ホームページ:http://img.u.nosv.org/user/0301enmakun
作成日時:2021年4月10日 17時