ADAPTER <ｱﾀﾞﾌﾟﾀｰ> (ページ31)

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それらは全て、彼が十四歳にこの孤児院を出た後からも律儀に家具一ミリたりとも動かさずに残してあったのだった。数年前、慣れない静寂の中、ぎこちなく起床し、着替え、語らい、就寝し、という生涯初の一般的な生活を営んだ部屋。少年が、仕事の協力者となることを求めては毎度のように追い返され、目が覚めると、清潔に保たれたシーツと、花瓶に添えられた花の香りに包まれている。数か月前に此処に運ばれた時は、花瓶に沈丁花が添えられて、殺風景な白い部屋の中に仄かな甘い香りが漂っていた。その前はクリスマスローズと、ノースポール。帰る度に、きっちりと未だ清掃された自らの部屋を顧みて、溜息を吐き、それから数日孤児院で休みを取ってからまた此処を出る。それを繰り返す度に、少年の思考があの黒髪の人物に対する、異常な執着に呪縛されて行った。

「兄さん…」

　年少の弟妹達から聞き付けたのか、今度はドアの向こうから、若干あどけなさを携えているが、しかし落ち着き払った青年の声が聞こえた。声調だけで読み取れる、些か疲弊した声であった。直ぐに誰が訪ねてきたのかを少年は悟った上、兄の自分を呼ぶ声が返答を必要としていないことを瞬時に理解していたため、少年は応えずに、自由気ままな不良少年のように其の儘ベッドに横たわっていた。
　暫くすると、少年の読み通りに、返答を待たずして部屋の扉が開いた。ドアの隙間から覗いた重厚な金色の髪を一瞥して、再び天井を見上げた少年に対して、部屋に入った当人は上等な生地に包まれた両腕を胸の前で組んだ。

「…ったく、また不貞腐れてるのかい？兄さん」

　兄さんと呼ばれた当人は、天井と平行していた上半身を起こすや否や、呆れた様子でこちらを見下ろす入室者を、睨み付けるような眼差しで歓迎した。
　律儀にも、開けた扉を閉め、腕を組んで其処に立ち塞がっていたのは、純金で造形されたかのような豪奢な金髪と、プラチナに熱処理加工を施して作られたかの如く重厚なプラチナの瞳を持った青年、アーノルド・レオポルドであった。ローマの模倣家も驚くほどの造形美を完膚なきまでにそこに再現したかのような美形の青年である。

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